チュークのレック(沈船)ダイビングのベストシーン12選

ミクロネシアのチューク州は第二次世界大戦時の沈船などが見られる代表的なダイビングスポットで、世界各国から多くのダイバーが訪れています。海底には、いったいどんな船が眠っているのか、どこが見どころなのか?初級者から上級者まで、自身のスキルに合わせて楽しめるレックダイビングのおすすめシーンをチューク州政府観光局の倉林元気さんに伺いました。

INDEX

チューク州ってどんなところ?
チュークのレックダイビングの特徴
事前に知っておきたいレックダイビングの基礎知識
【スキル別】おすすめレックのダイビングシーンベスト12選
チュークへの行きかた・基本情報

チューク州ってどんなところ?

チューク州の本島『ウエノ島』

かつては日本の統治領だった

グアムから航路にて約1時間30分で辿り着くミクロネシア連邦チューク州。1989年以前は『 トラック諸島』と呼ばれていましたが、州憲法制定に伴い、現在の『チューク州』となりました。

チュークは、1914年から1944年まで日本統治が行われ、第二次世界大戦時には日本海軍の拠点とされていました。海底に沈む船が日本の船なのはこのためです。当時は、環礁内には多くの船が停泊していましたが、1944年2月に米軍の空襲を受け、そのほとんどが沈没。
戦時中に沈んだ日本の船、約40隻が残るチュークは、「世界最高のレックダイビング(沈船ダイビング)」ができる場所として世界中のダイバーから注目を集めています。

チュークのレックダイビングの特徴

日本語が多く残る船内

リーフやドロップオフなどの地形もおもしろいですが、ここでしか見ることができない「世界最高のレックダイビング」を体感したいところ。
日本企業のロゴが入った瓶やお皿、日本語がはっきりと読めるテレグラフやたくさんの計器などを見ることができるのは、かつて日本の統治下であったチュークならではの光景です。

漢字が書かれたランプについたサンゴ

沈没から75年以上経った船体にはサンゴがびっしりつき、生き物たちの住処となっています。他にもギンガメアジの群れや色鮮やかな生き物がダイバーを楽しませてくれます。

ギンガメアジの群れに出会えることも!

【チュークの魅力①】天然の“サンゴの壁”に守られる沈船

チュークは、約200㎞に及ぶ世界最大級の環礁(チューク環礁)に囲まれています。この天然の“サンゴの壁”のおかげで、流れや波の影響を受けにくい船は状態がよく、現在もほぼ原形に近い形を維持しています。
また、海中の残留物の引き上げが禁止されていることから船橋やマスト、大砲や戦車、エンジンルーム内部や操作盤など多くの物が残っており、全長100mを超える大きな船の姿を見ることができるのも、チュークの沈船ダイビングの魅力のひとつです。

『富士川丸』は透明度が良ければ船倉の位置までわかる

【チュークの魅力②】大きさや役割、個性豊かな沈船が眠る

水中には、零戦などの飛行機も沈んでおり、これらもダイビングで訪れることが可能です。大きさや役割の違い、積載物や構造物など、それぞれのレックには個性があるため、1ダイブで全ての見どころを見て回るのが難しいところ。
歴史に触れることのできるチュークのレックダイビングはまさに水中歴史博物館。 何度訪れても、何回潜っても新しい発見に出会えるはずです。

水面から船体が見える『りおで志゛やねろ丸』

事前に知っておきたいレックダイビングの基礎知識

船によっては30m近い水深でのダイビングであったり、構造物の下をくぐったり、通路を通ったり、通常のダイビングとは異なる場合もあります。
日本ではまだ「沈船は暗くて怖い」「日常生活とかけ離れていてあまり馴染みがない」という意見も耳にしますが、身をもって歴史を体感できるレックダイビングは、ロマンたっぷり!ここからは、チュークのレックダイビングをより楽しむための基礎知識を紹介します。

レックダイビング(沈船ダイビング)ってなに?

そもそも「レックダイビング」とはどのようなものなのでしょうか。
何を目的に、どんな場所に行くのか、こちらのページで紹介しています。

~水中で役立つ知識編~

ダイブ コンピュータの無減圧潜水時間の意味を理解する

レジャーダイビングは無減圧潜水が前提です。ダイブコンピュータが示す無減圧潜水時間について、もう一度理解しておきましょう。

チュークでレックダイビングをしていると、深い場所では浮上開始時に無減圧潜水時間が10分を切ることもあります。
そこで……
自分だけ0分になっていたらどうする?
表示が0分を超えたら自分のコンピュータはどういう表示になるのか?
デコ(減圧潜水)とは?
デコになったら何が危険なのか?
どのように浮上すべきなのか?
これらを理解しておきましょう。 ダイブコンピュータの基礎知識をおさらい!

残圧計などを体に密着させる

レック内部のパイプなどの突起物や、狭い通路を通る時にひっかからないようにするため、残圧計とオクトパスは体に密着させましょう。

~持っていきたい器材編~

水中ライトがあるといい

ライトがなくてもじゅうぶん回れる場所はあり、ガイドの照らすライトで補うこともできますが、船の内部の様子を見るには水中ライトを持っていくことをおすすめします。太陽光が入っているスペースでも、壁側は暗かったり、日本語の文字などをはっきり見たい時にはライトがあったほうが見やすいです。水中ライトは現地でレンタル可能なので事前に確認しておきましょう。

フルスーツとフード着用がおすすめ

レック内には剥がれた鉄板やパイプなど、鋭利な部分もあります。うっかり足や腕を切らないようにフルスーツ着用がおすすめです。
また、チュークは南国といえど雨と風が強い日は、水面休憩中、寒く感じることもあります。おすすめは5mmフルスーツ+2mmベスト。内部に入る場合は頭も保護するためにフードを着用しましょう。

~スキル・環境編~

潮の流れ

稀に流れることはありますが、環礁内でのダイビングなので流れはほとんどありません。
また、ほぼ全ての船にブイがついているので、不安な人はブイ沿いに、ブイがなくてもアンカーをかけるので、それ沿いに潜降浮上ができます。

水深とスキル

水深20m前後でも見られる船がいくつかあり、レジャーダイビングの範囲でもじゅうぶん見て回ることができます。スキルに不安があるダイバーは船内に入らなくても、船の甲板にある構造物や大砲、洗面台や瓶などを見たり、広くて明るい通路を通ってみたり。ソフトコーラルなどがびっしりついて漁礁になった船の周りの魚を見るだけでも、レックダイビングの魅力や迫力を充分感じることができるでしょう。
大きい船は見どころがいくつかあり、1ダイブでは回りきれません 。興味のある人にとっては、メジャーな日程の3日間9ダイブでも足りないくらい。ルートや見るものを変えて、また、スキルに合わせて色々な潜り方ができます。

ポイントへの移動

多くのレックは、拠点となるウエノ島から船で20分ほど。
冬は風が強く、移動中に船は揺れますが、ダイビングに影響はほとんどありません。夏は風がおさまり、海は凪になる日が増えます。
船がほとんど揺れない日もありますが、不安なかたは酔い止めを飲んでおきましょう。

準備万端で楽しいレックダイビングを!

【スキル別】おすすめレックのダイビングシーンベスト12選

船によっては見どころが多く、1ダイブで全てを見て回るのは難しいことも 。そのため、今回は船を個々に紹介するのではなく、ベストシーンを紹介するので、「この船の、この場所で、これが見たい」という具体的なリクエストをしてみましょう。

ただし、中には簡単に行けない場所や高いスキルを要求される場所もあるので、自分のスキルや経験を踏まえた上で、ガイドに相談して、安全なレックダイビングを心がけましょう。

内部に侵入する場合は、普通のダイビング以上に高いスキルが求められます。そのため、何百本潜っていても、スキルが足りなければ行くことはできません。
もし、スキル不足で行けないところがあれば、スキルを上達させてまた次回挑戦!上達すればするほど、多くのものを見せてくれるレックダイビング。魅力は奥が深いのです。

【初級編】水深が30m以内で、狭い空間や閉鎖空間にあまり入らなくても見られる
【中級編】水深が深かったり、狭い空間や閉鎖空間に入らないと見られない
【上級編】水深が深い、またはかなり狭い空間や奥深い閉鎖空間に入らないと見られない

いよいよレックダイビングへ!

【初級編】

初級編で紹介する沈船は、狭い空間や閉鎖空間にあまり入らなくても見ることができます。

『彩雲』の機体

日本海軍の偵察機「彩雲」。エンジンや計器はありませんが、きれいな機体を見ることができます 。ひと目で飛行機、とわかりやすい機体はインパクト大!

機体全体

3人乗りの座席

『富士川丸』の船首

チュークといえば『富士川丸』 というほど有名なレック。映画「タイタニック」の撮影クルーが実際に潜り、CGなどの参考にした船です。中でも船首に見どころが多く、日本企業の刻印が読めるテレグラフ、大砲に書かれた製造年とシリアルナンバー、迫力のある船首からの眺めなど。
おすすめ は、船首の周りを泳ぐ魚たち。タカサゴやギンガメアジの群れが泳ぎ、大砲のまわりにはクジャクスズメダイが舞っていて、美しい光景が広がっています。

船首

テレグラフには日本の地名と企業名が刻まれている


※動画内には高いスキルが要求される範囲も含まれています。

『山鬼山丸』の小瓶

船倉の中に、さまざまな色の小瓶が散乱しています。コルクの残った瓶、中身が残っているように見える瓶など、無数にあるので並べてライトを当てるときれいな写真が撮影できます 。ただし、沈殿物もあるので掘りすぎて視界不良にならないよう注意しましょう。

さまざまな形、色の小瓶

コルクが中に残っている小瓶も

『曳船』のテレグラフ

今とは少し雰囲気の違うフォントや旧漢字など、歴史を感じるワンシーンです。日本語が漢字でここまではっきり読めるのは珍しい!この船は2軸エンジンなのでテレグラフが2つありますが、両方ともはっきりと文字が読めます。

左舷側のテレグラフ

右舷側のテレグラフ

『平安丸』の船首と通路

日本郵船の船『平安丸』。長さ約156mで、チュークに沈む船の中では最大です。エントリー直後に見える船の側面は 視界に収まらないほど大きく、付着物に覆われています。
さらに 進んでいくと船首には 『平安丸』『HEIAN MARU』の文字。船名がはっきり読める船はここだけです。
船首 から中央部分に戻って、通路を通るのがお決まりのコース。 太陽の光が差し込んで、気持ちよく泳げます 。

船首で見える船名

太陽光が差し込む通路


※動画内には高いスキルが要求される範囲も含まれています。

神奈川県・横浜市の山下公園にある『氷川丸』は、『平安丸』の姉妹船 。これらの船は同じ設計図から作られたため、構造が似ています。現在は博物館として見学できるので、ぜひ『氷川丸』も訪ねてみましょう。より深い、歴史を感じるダイビングになるはずです。

『 平安丸』(左)と『氷川丸』(右)、デッキ通路の比較画像。海底に横たわっている『平安丸』に写真は合わせて『氷川丸』は90°右回転で比較

救命ボートの案内板。どちらも「LIFE BOAT」と記載されている

【中級編】

中級編で紹介する沈船を楽しむためには、中性浮力、潜水知識、水平姿勢の維持が求められます。

『日豊丸』の操舵室

映画などで見る、操舵輪をガラガラ~!とまわすシーン。まさにそんな雰囲気を感じることができるのは『日豊丸』の操舵室。操舵輪 、伝声管やテレグラフもそのまま残っています。

操舵輪とテレグラフ

操舵室

『二神』のエンジンルーム

隠れた名レック『二神』。エンジンルームにある、計器盤がかっこよく、天井から差し込む光もきれいです 。 計器盤の反対側に スイッチボードがあったり、空気溜まりでは顔を出すこともできます 。ただし、安全のためレギュレーターを外さないこと。狭い空間なので 少人数、且つ 高いスキルが要求されます。

計器盤

スイッチボード

『乾祥丸』のエンジンルーム

チュークで1、2を争う美しさの『乾祥丸』のエンジンルーム。爆破跡などはなく、ほぼ原形のままを見ることができます。並んだピストン、部屋の中央にかかった渡り廊下、太陽光が差し込む天井の窓が印象的です。

エンジンルームを床から見上げたアングル

きれいに並んでいるピストン

『清澄丸』の階段

階層が重なり、吹き抜けになっているエンジンルームの階段は外から見ても、中から見てもきれいです。特に晴れている時に、中から見上げると階段がシルエットになっていて、美しい光景が見られます。

階段を上から見下ろしたアングル

一部崩れているが、ピストンが並んでいる

【上級編】

上級編で紹介する沈船を楽しむためには、高い中性浮力、高い潜水知識、水平姿勢の維持が必須で、レックダイビングの豊富な経験が求められます。

『伯耆丸』のトラック

水深が深く、沈殿物が多い。内部侵入もしなくてはいけないため、高いスキルが要求されますが、高い人気を誇る『伯耆丸』のトラック。75年前に使われていたトラックやロードローラーなどの車が数台並んでいます。

トラックを正面から。今ではなかなか見ない珍しい形

運転席のハンドルも残っている

『りおで志゛やねろ丸』のエンジンルーム

『りおでじゃねろ丸』の正式名称は『りおで志゛やねろ丸」。文字化けではなく、志に濁点が正しい表記です。この船のエンジンルームは左右対称に時計やテレグラフなどが並んでいます。ただし、かなり狭い場所を通り、閉鎖空間に入るので簡単には行くことができません 。

左右対称なエンジンルーム

白いのがテレグラフ、中央が時計

『平安丸』のエンジンルーム

中には文字が読める計器やパーツが残っており、見どころがたくさんあります。前述の通り、『氷川丸』と比較すると同じ設計図から作られたはずですが、写真で見比べてみると中央の柱が『氷川丸』にはないことがわかります。ここも、かなり狭い場所を通り、奥深い閉鎖空間に入るので簡単には行くことができません。

エンジンルーム内部

文字が見える、計器

『平安丸』(右)、『氷川丸』(左)のエンジンルームをほぼ同じ場所から撮影。本来の船底は写真の右側。『平安丸』には柱があり、『氷川丸』にはないのがわかる

魅力もロマンもたっぷりなレックダイビング

ダイバーや写真家、探検家などを魅了し続けるチュークのレックダイビングをご紹介しました。
世界の海を渡っていたり、第二次世界大戦で活躍したり、沈船にはさまざまな歴史があります。そうした船が壊れ、海底に沈んでいく。沈船を目の当たりにすると、つい当時の情景頭に浮かび、冒険心がくすぐられます。

今まで沈船に潜ったことがないかたも、冒険、歴史、フィッシュウォッチングなどさまざまな側面を持つレックダイビングにぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

(写真=倉林元気)

チュークへの行きかた

日本 各地空港(成田・大阪・名古屋・福岡・札幌(新千歳))を出発
グアム 日本より約3時間半
チューク グアム国際空港で乗り換え約1時間半でチューク着(曜日によってはグアム泊が必要な場合あり)

チュークの基本情報はこちら

教えてくれたのは

倉林元気さん
株式会社ダイヤモンド・ビッグ社(地球の歩き方)を休職し、JICA青年海外協力隊としてチューク州政府観光局へ派遣中。ダイビングをはじめた時から沈船ダイビングにしか興味がなく、過去にはコロン、パラオなどで沈船ダイビングを経験。ブログ、インスタグラムでチュークの情報を発信中。
ブログ https://www.kurakurakurarin.com/

AUTHOR

Suga

DIVER ONLINE 編集部

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