癒されるのは、心に響くから
「自分の写真を見て、『癒された…』と言ってもらえるのはすごくうれしくて」
そう話すむらいさん。
「『癒された…』は、表面上のきれいやすごいとは違って、その人の心に響いていることが伝わる言葉。癒されたとか心がホッとするって言ってもらえると、心に響いた…、という思いになります」
明るい色調でほんわりとした雰囲気の作風は心を和ませてくれます。その空気感に癒しを感じる人は本当に多いのです。
「考えて撮っているわけではないのですけど、突き詰めると、撮影しているとき自分もその被写体に癒されているんですね。うわぁ〜と気持ちが高揚したり、きれいだ……と感じて、自分が癒されている。その気持ちを共有したい、人に伝えたいんです」
心に響いたものを自分なりのテイストで表現するのがむらい流。
「自分の気持ちを写真に乗せている。見たままではなくて、僕の心にはこう見えている。リアルにはこうじゃないかもしれないけれど、僕の心にはこう見えています、という撮り方をしています」
世界は美しさにあふれている!
写真集『LIFE IS BEAUTIFUL』に掲載した作品ももちろんすべて”心に響いたもの”たち。
「タイトルにあるとおり、Life is Beautiful! 世界は美しさにあふれていると思っていて、だから僕は写真を撮るんですけれども、光り輝いているのは絶景だけではないですよね。日常の生活の中でも、ああ、きれいって思える瞬間があります。クジラのように巨大な生き物との出会いに感動することもあれば、足元に咲くペンペン草がかわいいなと感じることもある。だから被写体はコレ、このジャンルと決めていなくて、自分が心惹かれたものを撮っています。作品選びの基準もフラットです」
陸上写真、水中写真というボーダーもありません。状況も被写体もすべてがフラット。”心に響く基準”は自分の中には明確にあるけれど、言語化は難しい……。
「ふわ〜って、うわ〜たまらん、というような気持ち。夢のようなそんな瞬間がくるんです。選んだ写真は、今見ても、そのときの気持ちが蘇る作品ばかりです」
心が集まって完成した写真集
じつは Life is Beautifulは、写真展の話が先行していました。予定していた会場は、東京・丸の内の〈富士フイルムイメージングプラザ〉。選び抜いた30点を展示予定。作品セレクトを進める中で、動き出したもう1つのミッションが写真集の制作でした。
「これまでに撮ってきた写真の中には大好きなのに世の中に出しにくいものもあります。でも『Life is Beautiful』というテーマならお見せできる! 本も作りたいなという気持ちになりました。
僕の周りには、医療従事者も多いんです。みんな疲弊しています。何もできないけど、そういう人たちがお家に帰ってちょっとでもホッとできる時間が作れれば、という思いもありました」
写真展に合わせて発売しようとすると、時間的にギリギリ。これまでは出版社があって編集者がいる環境で本作りをしてきたけれど、思い通りにいかないこともあったし、編集者の客観的な視点がストレスになったこともあったと言います。
「1度出版社を通さないで作ってみたかったんですね。それもあって、皆さんから先行予約をもらうくらいの軽い気持ちでクラウドファンディングをやることにしました。でも、正面から向き合うと、”なぜクラウドファンディングをやるのか”にたどり着くんですよ。担当の方に『ただ作りたい!だけでは支援してもらえませんよ』と言われて、この本を作る意味を改めて深く考えました」
これまでは苦手なことは人に託してきたむらいさんですが、今回は印刷所との契約もクラウドファンディングに関係する事務作業も全部自分。考えに考え抜いて募集ページに綴った気持ちは多くの人に響き、無事にセカンドゴールも達成しました。
「クラウドファンディングはお金を集めるんじゃなくて、人の心を集めるんだな、と思いました。改めて、自分はみんなに支えられている、感謝の気持ちがめちゃめちゃ湧きました」
まるごと”むらいさち”の1冊
写真集『LIFE IS BEAUTIFUL』は、全200ページ。手触りのいいソフトカバーの表紙は真っ白、シンプルにデザインされたタイトルが箔押しされています。
「書店に並べるイメージはなかったので、自由にオシャレに作ろう、とデザイナーさんと相談して決めました。写真集を作るときはいつも、お家に置いてインテリアになるような本にしたいと思っているんです。そう作れないときもあるんですが、今回はイメージ通りです!」
真っ白な表紙を開くと、カラフルな世界が広がる、まさに色の世界への扉です。
「今回は、日本で撮影した作品で統一しました。今、海外のことは想像できなくて、違和感があり外しました。日々のビューティフル。日本の美しさを伝えたい」
全200ページの写真集に写真は約200点。そこに、むらいさんからのメッセージがほんの少し。
「ポエム的な文を入れようと思っていたのですが、写真が200点集まると、詩的な言葉はそぐわないと感じたんです。僕の感覚なんですけど、100ページ以下の写真集はポエムな感じなんですけど、それを超えると”むらいさちの世界観”を超えて、本自体が”むらいさち”になる。むらいさちが顔を覗かせるのを誤魔化せなくなるとでも言えばいいのかな。だから、詩的なんだけど主観で言葉を書きました。僕が写真を撮っている理由みたいなことです。笑」
まるごと”むらいさちの写真集”、手にした方はその言葉に、うんうんとうなずけるはずです。
(取材・文:渡井久美)
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むらいさち写真展「Life is Beautiful」
■東京展 延期
■大阪展 7月7日〜7月26日予定
★この記事は、5月3日に、むらいさちさんのYouTubeチャンネル「うみさちTV」におじゃまして公開インタビューした内容をまとめたものです。写真展延期に伴い、記事の公開が遅れました。
うみさちTVはこちらからご覧になれます
むらいさちさん
水中からオーロラまで地球全体をフィールドにし、独特の感性と色彩で作品を撮り続けている。 沖縄に移住しダイビングガイド活動した後、実家の埼玉に戻り写真を勉強をスタート。広告写真家の助手をした後、ダイビング雑誌の出版社に入社。日本を始め世界を撮影で訪れる。その後独立。 現在、雑誌や広告の撮影で1年の多くを取材先で過ごしている。 講演やカメラメーカーの講師、エッセイの執筆、メディアへの出演など活動は多岐にわたる。 主な著書に写真集『ALOHEART』、『きせきのしま』『FantaSea』『しあわせのとき』 写真絵本『よるのこどものあかるいゆめ』詩:谷川俊太郎 などがある。
●関連ページ●
むらいさちさんのロングインタビュー「水中写真家という生き方」
(雑誌DIVER2016年5月号掲載)