潜水事故はなぜ起きたか 〜2020年事故データを読み解く〜

2020年は、コロナ禍に翻弄され続けた1年でした。国をまたいだ移動の制限、さまざまな業種が営業自粛。ダイビングサービスの多くも4〜6月は休業、海行きを控えたダイバーの方も少なくはなかったことでしょう。そんな1年でしたが、残念ながら潜水事故は2019年以上に多く発生していました。事故原因はどこにあるのか、、独自に潜水事故の情報を収集・分析している村田幸雄さん(国際潜水教育科学研究所)に聞きました。

*2020年の潜水事故データはすべて国際潜水教育科学研究所調べ。図表はそのデータを元に編集部が制作しました。*写真はイメージです。

2020年、潜水事故の死亡者は17人

村田さんが確認・集計した、2020年1月1日から12月31日の期間に起きたスクーバダイビングの潜水事故(日本国内外、日本人対象)は26件でした。死亡者は17人、救助されて医療機関に搬送され治療を受けて入院した方が9人です。

2020年潜水事故者(男女別)

潜水形態別に見る潜水事故の実態

ファンダイビングツアー中の事故が全体の約2/3

「潜水形態別に分類すると、
①ガイドが引率していたダイビングでは17件の事故が発生し死亡は11人、入院6人でした。
②セルフダイビングでは3件の事故が発生し、死亡2人。
③単独潜水では2件の事故が発生し、死亡2人。
④講習は、2件とも初心者講習中に発生した事故で、死亡1人、入院が1人でした。
⑤ガイド自身の事故は2件。
でした。

潜水事故者の推移(2012〜2020) *2012〜2019は海上保安庁まとめの資料より

ファンダイビングツアーの事故は増加傾向?

ガイドが引率したファンダイビングで発生した事故に限っていうと、2019年は12件、死亡が5人でした。比べると、発生件数は1.5倍、死亡者は倍以上に増加えています。村田さんによる2020の事故傾向の分析です。

ガイドの技量不足も原因か

ゲストダイバー自身の体調の問題、病死の疑いが強い場合もありますが、2020年は、それ以上にガイドやインストラクターの監視対応の不備が疑われるケースが目立ちました。
人材不足などのために、ガイドやインストラクターが1人で全ゲストに対応していますが、安全対策要員の役目を果たすサポートダイバーがいれば防げたと思われる事故もありました。
また、ガイドがゲストを案内する水域を熟知していないことが事故に繋がったと考えられる事案も発生しています。決まったスポットだけをガイドするのではなく、状況に応じて幅広い地域をガイドするスタイルも増えています。ガイドダイバー自身が、熟知したポイント数をどれだけ確保しているかが問題になります。得意なポイントもあれば、そうでもないポイントもあります。

基本ができていないゲストダイバー

ゲスト側の問題点として気になったのは「マスククリア」です。マスククリアに失敗したことが事故の原因になっているケースや、そもそもマスククリアのトレーニングを受けていないのではないかと思われる事故もありました。また水温が低く、マスク内に冷水が入ったことで呼吸トラブルが発生して事故に繋がった可能性もあります。顔面反射で呼吸が止まり、排気できない状態になることがあるからです。

地元の救助体制が被害を最小限に

7月23日、7月24日、8月1日に発生した3例では、地元有志による救助体制が整っていたことが幸いしました。事故発生後、ボランティア救助隊員が救助補助しながら陸上搬送、救急車やドクターヘリとの連携を図りながら蘇生対応しています。
11月22日に発生した事案では、事故者は潜水終了後2時間経過した後に体調不良を訴えています。酸素供給を実施したが体調不良が回復しなかったため119番通報して、救急搬送されました。救急医の診断では、潜水前後の水分補給が少なったことによる「不感蒸泄」が判明しました。「不感蒸泄」とは「発汗以外の皮膚および呼気からの水分喪失」のこと。聞き取り調査で、季節的に寒かったので水分補給はお茶600㎖1本で1日3本潜ったことがわかりました。潜水の前後で800㎖が必要な水分量、ということを覚えておいてください。

危険をはらむ自己流のセルフダイビング

2件のセルフダイビングでの事故は、いずれもベテランダイバーが関係したものでした。大深度へ潜水した後に発生したこともわかっています。
セルフダイビングは、ガイドダイバーの引率なしにCカートホルダー同士だけでバディシステムを組んで潜ります。Cカード取得後も、知識の更新を図って大深度潜水の危険性を理解していただきたい。もしもセルフダイビングで大深度潜水を行うなら、自己流ではなく、大深度潜水の講習を受けて理論講習とトレーニングを受けることをお勧めします。定期的な知識と技術のブラッシュアップの必要性を痛感しました。
12月19日の事故は、大深度の水中で倒れているセルフダイビングのダイバーをガイドダイバーが発見しています。ガイドは一気に水面まで引き上げて救助活動を実施しましたがセルフダイバーは亡くなり、救助したガイドは減圧症の疑いで高気圧治療ができる医療機関へ搬送されました。

無謀ととられかねない単独潜水

単独潜水で発生した2件はいずれも詳細は不明です。単独潜水は、大多数の地域では容認されていません。潜水指導団体によっては、単独潜水するための特別なプログラムを用意してトレーニングを開催しています。改めて単独潜水の危険性をダイバー自身が把握して欲しいと思います。

**
リストにはあげていませんが、このほかに、3月17日に、船舶火災が1件発生しています。ダイビング船がポイントに到着、投錨しエンジンを止めた際に火災が発生しました。たまたま近くに別のダイビング船がいたので乗船していた9名全員無事に救出されました。船は全焼して沈没しましたが、負傷者がゼロだったことは幸いでした。

以下、2020年に日本国内で発生したスクーバダイビング事故を一覧にまとめました。

*2021.2.22一部訂正

発生月別の事故者のまとめです。コロナ禍を象徴するかのように、4月、5月、6月は、事故は起きていません。

2020年の事故者の年齢層別のまとめです。黒い数字が死亡、オレンジの数字が合計です。

安全潜水のためにできること。

不幸にして起きてしまった事故は貴重な教訓を残してくれました。これから、楽しく安全にダイビングを続けるために心がけるべきことを、事故の実態を踏まえて村田さんが解説します。

ガイドであっても過信は禁物、日々トレーニングを

海洋講習中に講習生を見失う水中ロストや気象海象の判断ミスなどが指摘されています。また、ガイドダイバーがゲストの管理を怠っていたのではないかと懸念される対応が事故に繋がっているケースもありました。
急浮上への対応が遅れてゲストが海面上に飛び出した後にガイドが後追いで浮上していたり、ゲストの急浮上に気づいてすらいない場合もあります。
グループコントロール能力、水中監視能力が低いと思われるインストラクターやガイドの引率によって事故が発生しているのは残念です。実際に起こり得るアクシデントに対する対処法や未然に防ぐために知識や経験が乏しいのではないでしょうか。定期的に「ヒヤリハット」のスタッフトレーニングを行うことや地域のダイビング協会が開催する事故事例検証会に参加することも有効な手段です。自主的に、安全対策のための各種トレーニングに参加をしていただきたい。自分だけは大丈夫という自己過信の体質から脱却してほしいものです。

疎かにしてはいけない体調管理と健康診断

ダイバー自身の体調不良が原因と思われる事故も増えています。定期的に健康診断を受けて体調に問題がないか自己管理を心がけてください。
ダイビングサービスは、ホームページなどで健康状態の把握を呼び掛けています。健康上問題がありそうな場合は、医療機関からの診断書類の提出を求めています。インストラクターやガイドは「潜水士」という職業として扱われるため法律的には定期的に健康診断を受ける必要がありますが、実際には受診していない方もいることが遺憾です。

加齢による運動能力低下の自覚を

近年、ダイバーの高齢化が進んでいます。シニアでも楽しめるのはダイビングのよさですが、一般ダイバーだけでなく、インストラクターやガイドも高齢化しています。身体能力の低下を認識しましょう。
健康状態に加えて、年齢や体調を見極めて講習やファンダイビングの運動強度を考える必要もあります。ナイトロックス潜水を取り入れたり、潜水計画の立て方や生活習慣病の影響についても、再度検討すべき時に来ていると考えています。

新型コロナウィルス感染症の人体への影響

ダイバーの高齢化に関連しますが、インストラクターは人体の生理学・病態生理学など、医学的な知識を再構築すべきでしょう。
今後、新型コロナウィルス感染症に罹患し回復した人がダイビングに復帰してくるでしょう。既往歴のある人が体験ダイビングや講習を受けに来ることも予想されます。欧米では新型コロナウィルス感染症のダイビングへの影響について調査研究が始まっていますが、日本では翻訳情報を流す程度に留まっています。コロナ禍収束後、現場の混乱に拍車がかかるのではないか危惧しています。

救命シーンで効果が高い医療用酸素

ダイビングに医療用酸素が配備され、救命救護活動の中で有効に使われるようになってきました。循環器系、呼吸器系が原因での潜水障害が発生した場合は、現場で医療用酸素を活用できるのは望ましいことです。そのために医療用酸素の取扱いの講習も実施されているので、ダイビングに関わらず水辺活動の関係者は受講をお勧めします。
地域ぐるみで救助体制を構築して積極的に救命救護活動を実践している組織は、救命に効果を上げています。特に、静岡県伊東市の富戸地区を中心にした地元ダイビングサービスの有志が円滑に救助活動ができるよう組織化を実践。実際に、その活動で何例もの蘇生救命の実績が報告されています。筆者が所属している恩納村ダイビング協会では加盟店のインストラクターに蘇生法、救助法、酸素供給等のトレーニングを義務化しました。こうした取り組みが全国に広がることを期待しています。

沖縄では、海上保安庁と合同で、ヘリコプターによる救助の訓練も行われている

ダイビング事業者による救助訓練の様子

実例:バルブの開け忘れが招く潜水事故

最後に、特にドリフトダイビングでは、事故につながる可能性がある「タンクバルブの開き忘れ」について、具体的な対処法を紹介してもらいました。

技術が必要な水面でのバルブ開閉

「バルブの開け忘れ」は、ドリフトダイビングに限らず起こり得ます。しかし、流れのある水域でドリフトダイビングをする場合は、BCによる浮力確保はせず、エントリー後そのまま水底に向かって各自潜降、水中で集合する形式が大半です。そのためにバルブの開け忘れは、危険な状態に直結します。
もしも、バルブを開け忘れてエントリーしてしまったら、そして周囲に誰もいなかったら、やるべきことは何かおわかりでしょうか。
BCの空気は抜かれておりパワーインフレーターからの給気もできないので、まず呼吸ができるように自分自身のフィンキックで顔を水面上に維持する必要があります。
水面でバルブを開くには、肩越しに腕を上げて背中にあるタンクバルブを探し操作することになりますから、さらに浮いているためのフィンキック力が求められます。ベテランであったとしても、瞬時にこの対応ができるでしょうか。自分ひとりで水面上でバルブを開けることがいかに難しいが想像してみてください。
実際には、タンクを背負ったまま両手でバルブを必死に探し、開閉を試みることになりますが、これは没みやすい姿勢です。現実に、バルブを開こうともがくうちに顔が水面下に沈み、レギ呼吸ができないまま潜水墜落する事故も発生しています。
タンクを背負ったままバルブを開閉するのが難しそうなら、自分の吐く息でBCに給気して浮力を確保。水面でBCを脱いでタンクを体の前に持ち直してバルブを開きます。言うは易しですが、スクーバ器材全装備で立泳ぎができなければ難しいでしょう。
ガイドも含めてスノーケルを付けないダイバーが多くなっています。しかし、とっさの場合にスノーケルがあれば立泳ぎのフィンキックは最低限の浮力を確保すればよいだけになりますし、海水の誤嚥を防ぐこともできます。

予防策は、基本のキ・バディチェック

バルブ開け忘れによるトラブル防止の基本はバディチェックです。バディチェックでは、残圧だけでなく、レギュレーターやオクトパス呼吸が可能かお互いに確認しましょう。さらにガイドはエントリー前に「大きな声」で、ゲストダイバーに装備の確認を促します。ダイバー自身もセルフチェックを行い、バディ同士でも再チェックします。万一バルブの開け忘れがあってもこれで気づけるはずです。この準備が完了してからエントリーするという、ドリフトの基本手順を定着させましょう。
習慣づけたい自己防衛策は、「実際にレギをくわえて残圧計を見ながら2〜3回呼吸をする」です。その際に残圧計の針が動かないことを確認してください。もし、呼吸の度に針が動けば、バルブが半分しか開いていないことを意味します。セカンドステージのパージボタンを押して空気が出ることを確かめるダイバーがいますが、場合によってはデマンドバルブレーバーが戻らないこともあるので気をつけてください。

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Wati

DIVER ONLINE 編集部

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