気付かなかった耳の圧外傷
初心者ダイバーが、耳が痛いのにもかかわらずダイビングを続けた。
報告されたケース
1年半前に初めてダイビングして以来、いつも左耳が抜けにくいというトラブルを抱えていました。
私は唾を飲み込む方法以外で、圧平衡(耳抜き)ができません。鼻をつまみながら息を吹き込む方法での圧平衡は、今まで潜った25本で1度も成功したことがありませんでした。
少し前のコズメル旅行中のことです。私は4日間で7本ダイビングする予定でした。
その最初のダイビング中の出来事です。水温は80-89°F(訳注:約27-32℃)、透明度は50フィート(訳注:約15m)でした。
潜降中に圧平衡ができず、水深20フィートから30フィート(訳注:約6から9m)で数秒から1分間、左耳に痛みを感じました。
そのため、潜降を中止して担当ダイブマスターに耳の痛みを伝えました。少し浮上した後、唾を飲んで耳の圧平衡をし、痛みがなくなったので潜降を続けました。
水深約50フィート(訳注:約15m)で、また同じ耳の痛みを感じました。停止し、浮上した後に圧平衡を試みました。すると、突然左耳で大きな「爆発のような音」がして、強い痛み、めまい、吐き気が約1分続きました。この状態は、症状が発生した時と同様に突然収まり、その後はトラブルなくダイビングを終了しました。
もう1本潜り、岸に戻った後、ひどくふらふらする感じが始まり、次の日まで続きました。その後3日間、読書する時に目のかすみもありました。数日間は、左耳に時々軽い痛みがあり、ひどく酔っているような感覚がありました。
1本目のダイビングの直後、私は担当ダイブマスターに圧平衡が困難なことや、経験した症状について話しました。でも、しばらくダイビングを控えた方が良いのではないか、と私に勧める人は誰もいませんでした。他に何の問題もなかったので、予定通りにダイビングを続けました。でも、左耳の軽い痛みは、旅行の終わりまで残りました。
飛行機に乗るのに問題ないことを確認するため、帰国前に医師に診てもらうことにしました。
医師は左耳に中耳圧外傷があり、細菌に感染していると診断しました。耳から分泌液は出ていませんでした。私はコルチコステロイド*1を1回投与され、5日分の抗生物質、痛み止めのアドビル錠*2、鼻の充血除去の錠剤と鼻腔用スプレーを投与されました。
*1 訳注:副腎皮質ステロイド。アレルギー反応、炎症および免疫反応に対する抑制作用がある。
*2 訳注:アメリカ市販薬(日本未承認)
帰国し、耳の中で爆発のような音がした16日後に、潜水医学に詳しい医師に診てもらいました。医師は、鼓膜の奥(訳注:中耳)に出血が確認できるが、耳の炎症は完治していると言っていました。でも、耳はまだ炎症が起きやすい状態でした。
6週間後、再度同じ医師に診てもらったところ、耳は完治し、もう圧外傷はないと診断されました。耳をチェックし、いくつかの検査後にダイビング再開の許可をしてくれました。
それ以降、水深25から65フィート(訳注:約8mから20m)の冷水中で、14本のダイビングをしました。でも、このケース以前より深刻な耳関連のトラブルは、発生していません。圧平衡には少々問題がありますが、今までも常に問題があったのです。
専門家からのコメント
中耳の圧平衡ができない、というトラブルは非常によく発生し、最終的には圧外傷になる恐れがあります。耳の圧外傷はダイビングで最も頻繁に起こる傷害です。さらに詳しく知りたい方は、「ダイバーのための耳完全ガイド」を参照してください。(訳注:日本では発行されていません。)
圧外傷の症状は様々です。このダイバーが説明しているように、大きな音がするのは稀ですが、より一般的なのは、耳の痛みとめまいです。ダイバーなら、圧外傷の症状の知識を持っているべきですし、症状を無視してはいけません。耳に何らかの違和感があれば、ダイビングを控えるべきでしょう。航空機搭乗やダイビングの後、数日間にわたって軽い耳の痛みや音が聞こえにくい状態が続くようなら、医師に診てもらうべきです。
重症の圧外傷は、直ちに対処が必要な場合があります。航空機搭乗やダイビングの直後に、めまいや回転しているような感覚があるなら、すぐに医師に診てもらわなくてはなりません。なぜなら、まれに耳の緊急手術を要するからです。
痛みがひどく、耳から血液や体液が漏出している場合、鼓膜破裂の可能性があります。そのため、発症から数日以内に医師の初診が必要です。
– Petar Denoble, M.D., D.Sc.
★インシデントレポートとは
大事にはいたらなかったが、ヒヤリとしたりハットした経験(インシデント)に関する報告書のこと。内容を分析し、類似した事例の再発や、事故の発生を防止することが主な目的。ヒヤリ・ハット報告書。
コラムニスト
DAN ジャパン(ダン・ジャパン)
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