ダイビング前の浮力チェックを省略し、トラブルが発生 危険なダイビング事例分析 Vol.1

DANアメリカでは、メンバーから寄せられたさまざまなトラブルの報告を専門家が分析・評価してダイビングの安全に役立てているが、DAN ジャパンでは、DANアメリカの協力により、その内容を翻訳、会員に紹介している。DANジャパンに、一般公開されている事例をピックアップして紹介してもらった。 初回に紹介するのは、浮力チェックを省略し、トラブルが発生したケースだ。

ダイビング前の浮力チェックを省略。
そのため、命に関わりかねない事態になったが、なんとか乗り切った。

身長71インチ(180.5 cm)、体重270ポンド(122.5 kg) の51歳男性ダイバー。
最大水深120フィート(訳注:約37m)を含む、72 本のダイビング経験があります。自身のスキルレベルは中級程度と考えていました。報告してくれたインシデントは、圧縮空気とドライスーツを使用したレック(沈船)ダイビングの際に起こりました。

以下はダイバー本人の報告です。
私はダイビング前の浮力チェックを省略しました。ウェイト調整をしなかったので、エントリー直後自分がオーバーウェイト状態だ、と気づきました。そのため、エントリー後にボートの前方に移動し、ロープに沿って潜降するという指示された手順に従わず、真っ直ぐ沈船にむけて潜降しようとしました。しかし、潮流にあおられ沈船から離れた場所に着底したので、一緒に潜った他のダイバーは私を見つけることができませんでした。でも、私はきちんと安全なスピードで浮上し安全停止をしたので、結果的には事故に繋がりませんでした。
ログには、私が急速に潜降をしたことが示されています。【図1】

ダイビング開始1分後に、77フィート(訳注:約23m)に達しました。そこで、BCDに給気したら、急浮上してしまいました。60フィート(訳注:約18m)でコンピューターの急浮上アラームが鳴ったので排気をしましたが、45フィート(訳注:約13m)まで浮上が続き、その後再び潜降を始め、4分経過時に98フィート(訳注:約30メートル)にいました。

その時水底が視野に入り、私は周囲を見回しました。沈船が見えたので泳いでゆき、心を落ち着ける間、潮流に流されないよう沈船につかまりました。ダイビング開始5分後、私は水深102フィート(訳注:約31m)の水底にいたので、5分程とどまって状況を把握し、60フィート(訳注:約18m)の浅瀬に向かって斜面を泳ぎ上がり始めました。

開始12分後に上に伸びている索(ライン)に気付き、手を伸ばしてラインをつかみ、それを辿って水面下約43フィート(訳注:約13m)まで浮上しました。そこで数分間留まってすこし窒素を体から抜きました。

約17分経過後に浮上を決心するまで、少しの間浮力を調整しようとラインに沿って浮いたり沈んだりしました。その際急浮上したので、排気したら60フィート(訳注:約18m)まで沈みました。その後も、10フィート(訳注:約3m)で3分間安全停止するために、浮上したり潜降したりしました。

以下は、他のダイバーがこの出来事をどのように見ていたかの証言です。
彼はオーバーウェイトでエントリーしました。潜り慣れているタンクとレンタルのタンクは浮力が違い、ドライスーツにも慣れていませんでした。

エントリーの際、彼はウェイトのチェックをしませんでした。そのため、スーツの排気をした時にオーバーウェイトとなり、浮力コントロールができずに水底までまっすぐに沈んでしまいました。その後、浮上しようとしましたが、オーバーウェイトのせいで大量の空気を入れなければなりませんでした。そして、BCDの中の空気量が多いので、圧力の変化によって急激に膨張し、急浮上になりました。その状況を何とかしようと排気しましたが、今度は抜きすぎて再度沈んでしまいました。給排気のコントロールが出来るようになり、無事水面に戻るまでこの過程が繰り返されました。

専門家からのコメント

◆浮力トラブル◆
浮力トラブルは、頻繁にダイビングインシデントの根本原因となります。このケースでは、急浮上による圧外傷の危険性、頻繁にBCDの浮力調整をしているためにエア切れの危険性、そして過度の努力*1、溺死そして減圧症(DCS)の危険性がありました。幸いにも、今回のケースでは何ごともなく状況は解決されました。しかし、定期的な浮力コントロールスキルの練習と、新しい器材の構成や配置の場合に実施するダイビング前チェックの必要性は、いくら強調しても強調しすぎることはありません。
*1 訳注:無理をしすぎることは予期せぬトラブルにつながります

◆ダイビング適性◆
このダイバーは肥満体で、ビタミンやサプリメントと共に、複数の内科的疾患を改善するために投薬を受けていました。このケースで報告された情報によると、ダイビング適性に影響するかもしれない複数の問題があるように思います。
1.肥満 (BMI 37.7)
2.循環器疾患の兆候/危険性
3.危険と思われる薬物の組み合わせ
とはいえ、ダイビング適性があるかどうかは、健康および体力の状態を完全に把握しているダイバーの担当医が決定します。

病歴について詳細を教えてくれるように依頼したところ、すぐに情報の提供をしてもらえました。しかし、個人を特定される可能性があるので、こうした公の議論の場で詳細を公開・検討するのは適切ではないでしょう。以下に完全ではありませんが、質問と解答をいくつか載せます。

●心臓疾患の可能性を診る検査を受けましたか。
はい、たぶん。最近、心臓スキャンと呼ばれる検査を行いました。超音波で首・両腕・両脚を検査し、血液が詰まらずに体中に行き渡っていることを確認するものです。問題は特に発見されませんでした。

●運動をしていますか。どんな運動で、その頻度と運動する時間の長さも教えてください。
いいえ、運動といえるものはしていません。思い立って1週間程は運動を続けても、継続していません。

●この出来事の前に何本ぐらいドライスーツダイビングの経験がありますか。
大体12本ぐらいで、ドライスーツのコースも受講し修了しています。でも、自分のドライスーツを着て快適と思ったことは実際には一度もありません。いつも水没し、問題があります。ドライスーツを購入したダイブショップは、様々なトラブルに対して手助けしてくれますが、ドライスーツは大きな不満要因です。

このダイバーは健康問題の管理を上手に行っていますが、生活習慣の管理では改善点があることが判明しました。彼は完全な医療管理下にあり、かかりつけ医師が全ての投薬の処方をしています。薬物の相互作用の危険性を管理することは重要です。きちんと年に1度の健康診断も受けています。

最近、心臓スキャンにより心臓血管の危険因子に関する広い範囲の評価が行われ、結果は正常範囲内でした。タバコは吸いませんし、過度の飲酒(1週間に2日程度飲酒しているようです)もしません。

しかし、運動が十分ではありません。食事量が、肉体的活動によるエネルギー消費を越えているため、エネルギーバランスは体重増加に傾いています。ダイビングの安全域を広げるために彼が改善を検討するべきは、このあたりでしょう。
Dr. Petar J. Denoble

★インシデントレポートとは
大事にはいたらなかったが、ヒヤリとしたりハットした経験(インシデント)に関する報告書のこと。内容を分析し、類似した事例の再発や、事故の発生を防止することが主な目的。ヒヤリ・ハット報告書。

コラムニスト

DAN ジャパン(ダン・ジャパン)


〈一般財団法人 日本海洋レジャー安全・振興協会〉が行うレジャーダイビング事故者に対する緊急医療援助システム。会員になると、レジャーダイビング保険に自動的に加入。会報誌やwebサイトで潜水医学や安全に関する情報が得られる。また、海外で事故にあった場合にもスムーズに救助・搬送・治療が受けられる。

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DIVER ONLINE 編集部

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