腰痛予防は、日々の積み重ねから
—最初に、前号の「腰痛」の回で紹介できなかった、腰痛の予防法から教えていただきます。
山見 日ごろからできる予防法は、運動、腹筋・背筋の強化、ストレッチ、腰痛体操です。
背中やおなかの筋肉は腰を保護してくれます。軽い運動でも長く続けて筋力を維持できれば予防につながります。ただし、思い立ったときだけ激しい運動をするのは逆効果なので気をつけましょう。
—ストレッチもいいんですね?
山見 筋肉や関節が硬くなりがちな中高齢者では、ストレッチや腰痛予防体操(図1)をするだけでも意味があると言われています。
■図1 腰痛予防体操
腰痛予防は、柔軟な身体作りと筋力強化が基本です。ストレッチ、腹筋を強くする体操、背筋を強くする体操を継続して行うと効果があります。
※腰痛がひどいときに行ってはいけません。柔らかい布団の上で行うと、腰痛を悪化させることがあります。
【ストレッチ01】
仰向けに寝て、片側の足を伸ばしたまま、もう片方の足の膝を両手で抱え、ゆっくり胸に引きつけます。そのまま10秒ほど保ち、ゆっくり元に戻します。反対側も同じように行います。毎日続けられる無理のない回数行います。
【ストレッチ02】
仰向けに寝て、片側の膝を立てた状態から、ゆっくり膝を伸ばします。そのまま10秒ほど保ち、ゆっくり下ろします。反対側も同じように行います。毎日続けられる無理のない回数行います。
【腹筋を強くする体操】
仰向けに寝て、膝と股関節を軽く曲げます。足はその姿勢を保ったまま、上半身をゆっくり起こします。体力に応じて30〜60度曲げたらそのまま5秒ほど保ち、ゆっくり上半身を床に下ろします。無理のない回数から始めて徐々に増やします。
【背筋を強くする体操】
下腹部に枕を置いてうつぶせに寝ます。上半身をゆっくり起こし、胸が床から10cmほど上がったところで5秒ほど保ち、その後、床に下ろします。腰を反り過ぎると腰痛を悪化させることがあります。無理のない回数から始めて徐々に増やしますが、腹筋を強くする運動より少なめにします。
—準備体操も効果がありますか?
山見 ダイビング前の準備運動は高齢者ほど大切になります。
—冷え対策も重要でしょうか?
山見 腰痛持ちの方は、腰の保温と保護を兼ねて厚手のウェットスーツを着ることもすすめられます。
「五十肩」のときは無理はしない
ー腰ではないのですが、「五十肩」で、ダイビングが辛いというダイバーを見受けます。
山見 五十肩は、肩関節の周りに炎症が見られる病気です。肩関節周囲炎とも呼ばれます。
ービーチエントリーで気をつけることはありますか?
山見 足元にはじゅうぶん注意しましょう。ゴロタ石や苔が生えて滑りやすい所を歩くときは十分気をつけなければいけません。バランスを崩して転倒すると、腰に大きな負担がかかります。
ーどんな症状が?
山見 肩関節が痛み、動きが悪くなります。ひどくなると組織が癒着し関節の動く範囲が狭くなります。
ーダイビングはできますか?
山見 症状が軽ければダイビングはできますが、器材を持ったり背負ったりして悪化することがあります。
ー無理は禁物ですね。
山見 肩の可動域が狭くなっている方は、BCを着るときに患側の腕を先に通し、脱ぐときは後から抜くといいでしょう。両肩とも調子が悪い方は、写真1のように肘を曲げて腕を出し入れすると痛みが少なくてすみます。
■写真1 BCの着脱
(患側の腕をBCの袖に通したり抜いたりする場合)
中高年は骨粗鬆症と骨折にも注意
ーダイビングをすると骨がもろくなる、という話を聞きますが。
山見 ダイビングは骨粗鬆症になりやすいという話ですね。
一般に、ダイバーは骨量(ミネラル量)は少ないことが知られています。とくに職業ダイバーや女性ダイバーで、その傾向が高いといわれています。
ー骨粗鬆症になりやすいのでしょうか?
山見 宇宙に滞在すると骨粗鬆症になりやすいことが知られていますが、ダイビング中も無重力に近いため、同じような生理現象が見られるのかもしれません。
累計潜水時間が長いダイバーや閉経後の女性ダイバーは少し気にしておいたほうがいいかもしれません。
ー骨粗鬆症にかかるとどうなりますか?
山見 骨がもろくなり、骨折しやすくなります。
ーダイビング時でも注意が必要ですか?
山見 ダイビングではおもに3つの骨折が見られます。
1つ目は、重い器材を担いだときに起こる椎体圧迫骨折(背骨が押し潰される骨折)、2つ目は転んだときに受傷する大腿骨頚部骨折(股関節に近い太ももの骨の骨折)、そして3つ目が転んで手を突いたときに見られる橈骨遠位端骨折(前腕にある2本の骨のうち、細いほうの骨が手首に近いところで折れる骨折)です。
ー骨折のあと、どのくらいたてばダイビングに復帰できますか?
山見 骨折では、特別な合併症がなければ、1か月程度でギブスが外れます。上肢の骨折では、ウエットスーツや器材の装着ができること、BC操作やレギュレーターリカバリーが支障なくできれば復帰可能です。
下肢の骨折では、軽いジョギングができるくらいに回復すれば問題ないでしょう。
1回のダイビングでも「骨が腐る病気」になる!
ーダイバーの中には骨が腐る病気にかかる人がいるそうですね。
山見 減圧性骨壊死といいます。気泡が骨の中(骨髄)や骨の栄養血管にできると血流が滞り、数週間かけて発症します。
ーレジャーダイバーもかかるのでしょうか?
山見 以前は不適切な減圧を繰り返しているダイバーがかかる病気と思われていました。しかし最近は、1回のダイビングでも、骨内に気泡が生じれば発症することがわかっています。
ー何に気をつければいいのでしょうか?
山見 水深30m以深に減圧停止を必要とするダイビングをすると発症率が高くなります。
ーどんな症状が見られますか?
山見 痛みがあり、関節の動きが悪くなることがあります。重症になると人工関節を入れる手術をしなければいけないこともあります。レントゲンに写らないことが多いのでMRIで診断します(写真2)。
■写真2 両側の大腿骨骨頭部に発生した減圧性骨壊死
関節痛は減圧症に多い症状の1つ
ー減圧症のときも、関節が痛むようですが、どのような関節痛が見られたら減圧症を疑うべきでしょう?
山見 関節痛は、手足のしびれと同じくらいよく見られる症状です。主に、肘、肩、膝などの関節に現れます。それぞれ30%、30%、20%程度を占めます。
減圧症が疑わしい関節痛を表1に示しましたので参考にしてください。
減圧症が疑わしい関節痛
◎打ったり捻ったりしていないのに関節痛がある
◎ダイビングが終わって少し時間がたってから痛みが現れた
◎手足のしびれや関節周囲の痛みを伴う
◎関節痛が2か所以上
◎数日たつと痛みが少し和らぐ
◎酸素を吸入すると和らぐ
ー減圧症かもしれない、と思ったらまずどうすればいいですか?
山見 高気圧酸素治療施設の予約をして、近くに酸素ボンベがあれば酸素を吸いましょう。
コラムニスト
山見 信夫(やまみ・のぶお)先生
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい。
>>ドクター山見 公式webサイトはこちら
http://www.divingmedicine.jp/
*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)