水深3mでギブアップ 水面で溺れて意識を喪失
ダイビング歴3年のIさん(30本/女性)
ストレスフルな1年ぶりのダイビングで途中棄権し、水面に浮上したものの溺れてしまい、意識を喪失してしまった体験をご紹介します。
以下はダイバー本人の体験談です。
3年前に、沖縄でCカードを取得した私たち夫婦は、その後に訪れた奄美大島の海や人々の温かさに魅了され、年に1度は奄美大島に行っていました。しかし昨年9月、4度目の奄美の海を潜った際、危機的なこの体験をしたのです。
この時は奄美に来るのも、ダイビング自体も約1年ぶり。やっと再訪できた喜びとともに、ブランクのあるダイビングに緊張と不安も感じていました。年齢は50代、水中で急な体調変化による事故を起こすシニアダイバーもいるという話も聞くので、ただでさえ毎回緊張しがちな私たち。今回は1年ぶりということで、さらなる不安が入り交じっていました。
しかし、毎回お世話になるダイビングサービスのガイドはとても明るく親切で、もう4度目ということもあり、和気あいあいとした会話で気分を盛り上げてくれます。和やかな雰囲気の中、さっそく器材の準備に取りかかりますが、器材はすべてレンタル。使い方も自信がないため、一から復習しながら進めます。その日のゲストは、私たち夫婦を入れて5人。海況もよく、1本目は穏やかな湾内のボートポイントへ向かいました。
マスクに水が入り 膨らむ不安感
海に出たとたん、不安が一気に増大し、無言で水平線を眺めるしかできません。その様子に気づいた夫が「だいじょうぶか?」と気にかけてくれます。「緊張しているだけ」と答えますが、内心は初心者&ブランク&シニアのストレスから負のイメージが膨らむばかり。潜らずに引き返したいほどの不安感でした。しかし10分足らずでポイントに到着、弱音も吐けないままエントリーします。
水面では不安はさらに増大し、マスクには動けば動くほど水が入ってきます。私はすぐ顔を上げてレギュレーターを外し、「マスクに水が入って変!」と叫びました。すると、後ろから来たガイドが「髪の毛が入っていたのかもしれませんね。少し休んでから、付け直しましょう」と言ってくれます。私は深呼吸を繰り返し、マスクを再装着。ストラップの調節などをしてもらい、再び顔を水につけると、今度はだいじょうぶそうです。その場でガイドといっしょにマスククリアの方法を確認した後、潜降を開始しました。
マスククリアに失敗 水没した視界と痛みに耐えかね水面へ
ガイドを先頭に、2名のゲスト、夫、私、後ろに1名の順で、ロープをつかんで潜っていきます。しかし、またしてもマスクに水が入り、締めつけられる圧迫感も恐怖に拍車をかけてきます。たった1m潜っただけなのにそれ以上進むのも恐ろしく、私はあっという間に遅れ始めました。
恐怖と闘いながら2m、3mと進み、試しに鼻から息を吐いてマスククリアをしてみようとした、その時です。「ズボボボボッ」マスクを手で押さえずにクリアしたため、マスクがずり上がり、大量の水が入ってきました。マスクが外れたかと思うほど水没した視界と、鼻から海水が入る痛さで理性を失った私は、一目散に水面へと浮上してしまったのです。
水深3mからの浮上だったので水面にはすぐ顔を出せたものの、「もう無理。上がる!」と決心しました。その時、意外と私は冷静だったと思います。マスクの位置を直して中の水を出し、レギュレーターは外してスノーケルにくわえ直しました。
フィンが外れ、身体が沈み始めた 水中で意識が遠のく
しかしこの時、BCへの浮力確保はせずに、フィンキックをしながら水面に浮いていました。私はそのまま船の後方にあるラダーを目指してダッシュしますが、不運は続くもので、その途中で右足のフィンが外れてしまったのです。フィンが落ちたので足を止め、横を向こうとした次の瞬間、今度は身体がなぜか水中に沈んでいくではありませんか!「えーなんで!? 沈む! 助けて!」
私は懸命にもがくものの、沈む身体をどうすることもできません。意識の中で水面が遠ざかり、くわえていたスノーケルから水が入ってくるのを感じたところで、記憶がとぎれました。気がつくと私は水面で咳込みながらガイドと船長に救助され、船に引き揚げられるところでした。
聞くところによると、ガイドは急浮上する私に気づき、他のゲストにその場で待機するよう指示を出してから浮上する途中で私が沈み始めたそう。ガイドに3㎏でいいと言われたウエイトを、4㎏付けて潜ったことが沈んでしまった一因になったのだと思います。
浮上してきたガイドが水深3〜4m付近で私をつかまえ、意識のない私にレギュレーターをくわえさせながら水面に浮上。水面ですぐに人工呼吸をしたところで私の呼吸が戻ったそうです。その後、私は帰港とともに救急車で島内の病院に運ばれ、専門医の処置と診断を受けました。結果は幸い、肺水腫などの疑いもなく、入院せずに数日間の安静程度で済みました。しかし、一歩間違えれば致命的な大事故になっていたはず。そう考えると、恐怖心から、いまだ海には潜れていません。
PADIコースディレクターからのコメント
負のイメージがあるなら、ストレスを抱えたまま潜らない
慣れない器材、重なるストレス、それにより大変なトラブルになっています。精神的なストレスで話もできないのに、そのまま潜り始めたこと、そして、マスクの違和感という直接的なストレス、肉体のストレスによって引き起こされたパニックです。トラブルが重なり、オーバーウエイトだったこともあり、水面に浮いていられなかったようです。パニック状態で水面に浮上してしまった場合も、水面でBCにきちんと空気を入れること。もし入れられないのなら、ウエイトを捨てること。
自分自身でマイナスイメージがあると感じるなら、ガイドに伝えましょう。初心者、シニア、ブランクということを理解しているなら、リフレッシュコースなどに参加して、少しでも快適に潜れる状態にしておくべきでしょう。
ダイビングでは、慌てて物事を行うことによって重大なトラブルになってしまうことがたくさんあります。まずは慌てない。ストレスを減らす。これを考えてゆっくりダイビングに復帰されてはいかがでしょう?
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アドバイザー
我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。
>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/