想像を絶する激流にマスクをさらわれる
沖縄でCカードを取って6年、それ以来リゾートをメインにダイビングを楽しんでいます。これは昨年の冬休みに、与那国島へ潜りに行ったときの危機体験です。
僕はダイビングを始める前から、いつか海底遺跡を潜りたいとずっと憧れていました。とはいえ、与那国島のそこは潮が速く高いスキルも必要と聞いていたので、自信がついたら、と思いを募らせながら迎えた5年目。経験本数も100本近くなったので行ってみることにしました。
初日からダイナミックな地形ポイントなどを潜り、迎えた2日目。1本目から海底遺跡を潜れることになり、海況や注意点などをガイドがブリーフィングで丁寧に説明してくれます。ノーアンカーのドリフトダイビングは、パラオなどでも経験済みだったのですが、いっしょに潜るゲストは僕以外全員100本以上の上級者ばかり。憧れのポイントへ潜れる喜びと同時に不安も覚えながら、準備を整えてENしました。
一瞬で身体を持っていかれる激流! 憧れの海を観賞する余裕もなく
水中はすでに、油断するとすうっと流されてしまいそうな流れを感じました。一気に緊張が走るなか、みんなを追うように潜降し、ガイドに続いて泳ぎ始めます。まずは穴をくぐったり切り立つ巨岩を眺めたりしながら進み、いよいよ待望の海底遺跡のメインテラスへ到着。その圧倒的な景色に興奮しながらも、強い流れは容赦なく僕らに向かってきていました。EN前、「流れが速いのでなるべくみんなでまとまって移動するように」とガイドに言われたので、必死にみんなと足並みをそろえます。そうして遺跡を回りながらとある角を曲がると、びゅうっと想像を絶する激流に襲われました。
「 す、すごい流れ……。」僕はたちまち恐怖に身体が震え出しますが、「ここでひるんでいたら身体を持っていかれる!」と無我夢中でみんなを追いかけ、なんとかメインテラスの棚上にしがみつきました。
ここまでの激流を感じたのは初めてだった僕は、海の恐ろしさにただただおびえるばかり。すでに夢の遺跡を堪能する余裕すら失っていました。そうしてしばらく激流を耐え忍びながら、ふとガイドやみんなの様子を伺おうと顔を横に向けた瞬間、僕のマスクががばっと外れ、激流に持っていかれてしまったのです! 視界は一瞬でモヤに閉ざされ、鼻からは勢いよく海水が流れ込み、瞬時にパニックに陥ってしまいました。
マスクの行方は知る由もなく、僕はとっさに目をつぶり、片手で岩をつかみながら、もう片方の手で激痛を感じる鼻を思い切りつまみ、息苦しさに耐えるしかできません。それでも流れは僕のレギュレーターまで吹き飛ばしそうなほど。「レギュレーターだけは死守しなければ!」と、息をすることだけに集中するのがやっとでした。「このままどうすれば……誰か助けてくれ」一瞬でも油断すれば死と隣り合わせのこの時の時間は、ずいぶんと長く感じました。
鼻に海水が流入し激痛にもだえ身動きのとれない瀕死の時間
そんなやさき、誰かが僕にマスクをかぶせてくれている感触を感じました。「助かった!」僕はされるがままにマスクを定位置に装着され、呼吸を整えながら必死にマスクをクリア。そうしてようやく目を開けると、そこにはガイドの姿がありました。ほっと安堵しながらも、鼻の激痛に何度もむせ返りながら、ガイドといっしょに残圧を確認するとすでに50近くも消費しています。僕はふだんからエア消費も激しい上に、突然のアクシデントに呼吸はますます荒くなっていたと思います。ガイドはみんなにいっせいに手を放す合図を出すと、僕を連れて海底遺跡を離れ、そのまま無事に浮上することができたのでした。
船にEXした後、トラブルについて振り返ったところによると、僕がマスクを吹き飛ばされる瞬間を見ていたゲストが、激しい流れに翻弄されながらもマスクを回収してガイドに渡してくれたそう。夢の海底遺跡デビューは惨敗に終わりましたが、もっとスキルを磨いて、またいつか堪能できるようにチャレンジしたいと思っています。
マスクを無くしても慌てず、落ち着いて呼吸することを最優先に
激流にマスクを持っていかれてしまった、単純なトラブルです。Cカード講習で教わる「マスクなし呼吸」のスキルは、このようなケースを想定しています。マスクが外れたときは、まずはいったん落ち着いてから、マスクがない状態でも呼吸をすることに集中してください。流れのある場所で潜る際には、マスクストラップを少しきつめにする、横を向く時はマスクを手で押さえるなども有効なテクニックです。マスクがなくても呼吸はできます。慌てないことが大事です。
コメント=我妻 亨( PADIコースディレクター)
>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
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