固有種 ニューカレドニアで生き物に出会うダイビング Vol.2

ゴンドワナ大陸の名残であるニューカレドニア。今のオーストラリアと分かれたのは白亜紀末期とされており、このことがほぼ孤立した環境での長期にわたる進化につながった。そのため多くの種はオーストラリアのものと親和性が高いものの、水陸併せた動植物の固有種の割合は76%にのぼり、世界第3位の固有種シェアを誇っている。今回はその中でも海水魚の固有種に魅せられた鉄多加志さん(東海大学)が、その魅力を石垣館長と語った。 写真 = 鉄多加志、戸村裕行(人物) 文 = 岡弥生

沼津港深海水族館 館長
石垣 幸二さん
深海生物に特化した世界的にも珍しい水族館の館長。並々ならぬ好奇心で深海生物の謎を追求し続けている。

東海大学 海洋学部 海洋フロンティア教育センター 講師
鉄 多加志さん
安全潜水について研究するいっぽうで、学生のニューカレドニアへの海外講習を引率し、ダイビングの指導も行う。

ニューカレドニアならではの出会いを求めて

まるで歌舞伎の隈取りを思わせるフェイスのコンスピキュアスエンゼルフィッシュ。一度見たら忘れられないほどのインパクトを残すこの固有種に会ってみたいと思ったのが、ニューカレドニアを訪れるきっかけだったと話す鉄多加志さん。

「高確率で会えるのがニューカレドニアとわかり、プライベートで潜りに行ったのが2002年だったと思います。この時は運よくブラックマンタで有名なポイントで見ることができてラッキーでした」

それ以来、自身のフィールドである静岡・三保の海とともに大切なフィールドとなったニューカレドニアは、他にもニューカレドニア近海でしか見られない固有種が多く、行く度に発見があると語る。たとえば、ペインテッドアンティアスを水深27mほどで初めて見た時のことをこう振り返った。

「もしかしてあのペインテッドアンティアスかな、と思ってガイドに聞くと、その種なら水深12mで見られる場所がありますよ、と言うのです。まさか、と思いました」

その言葉どおり、ブラックマンタに会える人気ポイント「パス・ドゥ・ブーラリ・アウト」でお目当てのペインテッドアンティアスを見た時には、あまりにも簡単に会えて拍子抜けしたという。

「ペインテッドアンティアスはオーストラリアでも見られますが、たいてい水深30mほど。ニューカレドニアでは浅い場所で見られるから、じっくり撮影もできますね。じつは僕もペインテッドアンティアスが大好きなんです」

もともとアンティアス(ハナダイ)の仲間が大好きという石垣館長もこの固有種ファンの1人。他のアンティアスの仲間と同様に潮通しのいい場所でハーレムを作るが、ペインテッドアンティアスのオスの婚姻色の美しさは別格だと語った。

コンスピキュアス エンゼルフィッシュ
Chaetodontoplus conspicillatus(Waite, 1900)
「コンスピキュアス=人目につく、異彩を放つ」といった意味を持つ英名のとおり、その派手な模様で多くのダイバーを魅了するキンチャクダイの仲間。数が少なく、ニューカレドニアでも会えるのはまれだ。

ペインテッドアンティアス
Pseudanthiaspictilis(Randall&Allen,1978)
オーストラリアの南部GBRやフォーク諸島、ロードハウ諸島などに生息。水深20~30mの比較的深場のサンゴ礁のスロープなどで見られる。写真は性転換したオスの個体。1匹のオスと複数のメスからなるハーレムを形成する。

興味尽きない多彩な固有種

「ニューカレドニアならではといえば、ハゼも見逃せませんよね。エレガントゴビーなどはその代表でしょう」

深海生物だけでなく、自身もダイバーであり幅広い海洋生物の知識を持つ石垣館長がハゼ類に言及すると、鉄さんはすかさず自身が撮影した画像を提示した。

「このハゼを見てください。ダテハゼの仲間でしょうか?他にもオニハゼと思われるものもあるのですが、日本で見るオニハゼとは模様が少し違う。ハゼ類は好きでいろんな所で撮影しているのですが、ニューカレドニアで撮ったハゼの仲間には種名がはっきりしないものが多く飽きないですね」

画像を確認した石垣館長も首を傾げながらこう語った。

「どれも似ている種はあるけれど、それとは明らかに違います。地域変異みたいなケースかもしれないですが、実際に採集して調べたら新種だったという可能性もあると思います。またそれが固有種ということもあるかもしれませんね」

エレガントゴビーがアカハチハゼに似ているけれども異なるように、日本でよく見かける種と似ているけれどもどこか違うという固有種がいる。そのいっぽうで、ラインド・フェアリーラス、マゼンタストリークトラス、ディープウォーターラスなど日本ではまったく見かけない美しいベラ類の固有種も多く、興味は尽きない。

エレガントゴビー
Valencienneadecora(Hoese&Larson,1994)
アカハチハゼに似ているけれど、4本の横縞がある点で違うと気づく種。見られる時期が決まっており、10~6月が旬。ちなみにニューカレドニアにはアカハチハゼも生息している。

イースタンモルウォング
Cheilodactylusvestitus(Castelnau,1879)
ミギマキに似ているけれど、模様がちょっと違う

「ニュウドウハゼなどの幼魚かもしれません」(鉄さん談) 全長2.5cm。水深15mほどのテパバの泥っぽい砂地にて

ホタテツノハゼの仲間? 沈船ポイントの水深26mほどの海底で発見。全長7cmほど

オニハゼと思われるが、日本のオニハゼとは少し模様が異なる。「ソノアロック」の水深21mの砂地にて

学生の実習に最適すぎる環境

現在、東海大学で講師を務めている鉄さんは、4年ほど前から年に1度、ニューカレドニアでダイビングの指導を兼ねた実習を行っている。

「これだけ固有種が多いと、日本の海で見る種類との違いに驚く学生もいるのではないでしょうか?」

そんな石垣館長の疑問に対する鉄さんの回答は意外なものだった。

「それがパスポートを取って初めての海外でそういった固有種に触れたり、ブラックマンタに会えてしまったりするので、その体験の貴重さをよく理解していない学生が意外と多い。環境がよすぎるのです」

なんとも羨ましい話だが、実習ではまずチェックダイブを行った後に前回登場したジェフさんが所属する「ニューカレドニア・ラグーン水族館」へ。どんな生き物が見られるのか確認してから翌日のダイビングに臨むという。その実習内容を聞いた石垣館長はすぐに賛同した。

「事前に予習しておくと実際に見た時の感動が違いますよね。コンスピキュアスエンゼルフィッシュも水槽でなら、じっくり観察できますし」

じつはコンスピキュアスエンゼルフィッシュは地元ガイドでも年に1~2度しか会えないレア種で、鉄さんも1度見たきりだ。

「最初に見た時も潮の流れに乗って素早く移動するので、ピントを合わせるのが難しくほとんどまともな写真は撮れなかった。水族館ではゆっくり見られるので助かります。またいつか実際の海でも会いたいですね」

ダイビングボートが出せないほど海況が悪い日には、波の影響を受けない場所でSUPなどのマリンスポーツを楽しむなど、代替メニューが豊富なのもニューカレドニアの魅力だと鉄さんは言う。スノーケリングでトラフザメに会えたり、体験ダイビングでシノノメサカタザメに会えたりした学生もおり、うれしいハプニングが期待できる海でもある。今年度の実習では、どんな出会いが待っているのだろうか。

実習では世界自然遺産に登録されたエリアにあるグリーン島にてスノーケリングを楽しむ

提携しているニューカレドニア大学で研究内容のレクチャーを受けた学生たち。東海大学は他にも航海実習船が立ち寄るなど(現在は終了)、ニューカレドニアとは深い縁で結ばれている。

「ニューカレドニア・ラグーン水族館」でダイビング前の予習

>> 第1回【深海生物】編 はこちら

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Takeuchi

DIVER ONLINE 編集部

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