大事なものは持って逃げる 屋久島でダイビング Vol.1

アゴアマダイ科は現在日本産が12種知られており、他にも未記載種や未同定が数種いるようだ。屋久島の浅いエリアを中心に見られるこの種類は現在のところ、未同定だ

春から初夏にかけての時期、屋久島の水深10m以浅でのんびり水底を散策していると、冬の間はほとんど見られなかったジョーフィッシュ(アゴアマダイの仲間)が、そこら中で巣穴から顔を出しているのに出会う。小さな巣穴からカエルのような顔をひょっこりと出した姿は愛らしく、多くのダイバーを和ませてくれる。この時期は彼らの繁殖期に当たり、この時期以外でも姿は見るのだが、明らかにこの数か月間が突出してよく目につく。これはきっと繁殖期間中は活発に動くため、巣穴の蓋が開いていることも多く、捕食も盛んだからなのだろう。また、繁殖期はオスとメスの巣穴が隣接した場所に集中するため、目立つということもあると思う。
ジョーフィッシュというと、メスが産んだ卵をオスがくわえて子育てすることがよく知られている。しかし、屋久島でジョーフィッシュを観察するようになって最初の2~3年は、卵をくわえたオスがまったく見つからなかった。これだけたくさんいる魚なのに、なぜ卵をくわえたオスに出会えないのか不思議だったのだが、その疑問はひょんなことから解決された。
ある日、いつものようにジョーフィッシュを撮影していると、間違えて小石を巣穴の中に落としてしまった。当然、驚いたジョーフィッシュは巣穴の中に引っ込んでしまったのだが、次に顔を出した瞬間、彼の顔を見てビックリ! 先ほどまで卵をくわえていなかったジョーフィッシュが、なんと大きな卵塊を口いっぱいに頬張り、出てきたのだ。
つまり、このジョーフィッシュたちはどうも普段は卵塊を巣穴の奥深くに隠し、驚いて危険を感じるとくわえて出てくるのだ。いちばん大切なものを口に入れ、いつでも逃げることができるように準備するというわけ。知らなかった生態……。それまでテンジクダイの仲間のように、オスは孵化までずっと口の中で卵を守っているとばかり思っていたので、衝撃的だった。テンジクダイの仲間は卵が孵化するまで食事も取れずにひたすら口の中で卵を守るのに対し、このジョーフィッシュはしっかり栄養を摂りながら要領よく子育てしていたのだ。
自然にできるだけインパクトを与えないダイビングをすることはとても重要で否定する気はまったくないが、ただただ影響を与えないように遠くから見守っていたのでは気づけない生き物の生態もあることを知った。

 

AUTHOR

Takeuchi

DIVER ONLINE 編集部

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