森の樹木や草花は太陽の光を浴びて光合成を行い、酸素を放出する。僕らが地球上で生きていく上で欠かせない酸素は、こうして作られる。この植物が排出する酸素は陸上で生活している限りにおいては、けっして目で見ることはできない。しかし、なんと僕らは海の中でそれを見ることができる!
太陽光が差し込む浅い水深にある海藻や水草、そして水中を漂っている植物プランクトンなども光合成を行い、酸素の一部を水中へ放出する。この水中で放出された酸素は気泡という形で僕らの目で見ることができるわけだが、これがもっとも見やすいのは明るい太陽の光を浴びたタイドプールだ。干潮時、タイドプールの海藻は水面下数cmの水深にあるため、太陽の光がよく当たり、より深い場所にある海藻や植物プランクトンと比べてもかなり活発に光合成を行っている。この放出された酸素はタイドプール内の海藻に細かい気泡となって付着する。これがいわゆる陸上では見ることができないが、水中では見ることができる“目で見える酸素”だ。僕がその存在に気づき、意識したのはごくごく最近のことだ。
海藻が光合成を行い酸素を放出することは、よく考えれば当たり前のことであり、誰もが知っていることなのかもしれない。当然、僕も知っていた。ただ、“知っている”ということと“気づく”ということは別の話で、いったいどれくらいのかたがこれを意識しているだろうか? タイドプールは荒々しい外海から隔離された空間だからか、とても静かな時間が流れる。落ち着いた状態でじっとこの空間の住民たちと対峙していると、この気泡の存在には嫌でも気づく。それが光合成によって生まれた酸素だとも。これら酸素の気泡は次々と放出され、時間をかけて海藻から離れ、ゆっくりと水面に上がっていく。また、潮が満ち始めると水中が揺れるため、気泡は一気に海藻から離れて浮上していく……。生命を持つすべてのものは生きるためにこの酸素を必要としている。つまり、この酸素の気泡は生命の源であるともいえ、生命の旅はここから始まるといってもいいだろう。
この写真を見て石垣島の同業者のかたがサンゴに付着する細かい気泡を撮影した。サンゴは褐虫藻と共生している。当然、褐虫藻は藻類なので光合成を行い、酸素を放出する。それはもちろん僕も知識として知っていた。でもそれに気づき、驚くことはこれまでなかった。海藻だけでなく、サンゴからも“目で見える酸素”を見ることができると気づかされ、僕はさらなる感動を抱いた。これが“知っている”ということと“気づく”ということの違いだ。