岩に貼り付いた被覆状のサンゴ類は今夏、軒並み色褪せたり、白くなったりした。ポリプは下地が白いと余計に目立ち、まるで雪中花のようだ。その上でこの時期が旬のイシガキカエルウオの赤ちゃんが無邪気に遊ぶ
今年の夏は稀にみる高水温だった。ただ水温が高かっただけではなく、30℃前後の水温の期間が驚くほど長く続いていた。7月に入ってすぐに水温はグングン上がり始め、7月10日前後には早くも30℃に達した。例年、7月上旬はまだ黒潮が完全には接岸していないことも多く、通常30℃を超えるのは7月後半から8月に入った頃だ。しかもそれは太陽光で温められる浅い表層付近の水温であって、10m以深の水温はだいたい28℃前後であるのが常だ。それが今年は30℃に達するのが早く、しかもそれが10m以深にまで及んでいた。
さらに異常だったのが、その高水温が長く続いていたことだ。9月上旬になっても、依然として水温は30℃を超えており、じつに約2か月間も高水温の状態が続いた。僕が屋久島に来てからの10年間では、ここまで高水温が続いたことは過去に例がない。
当然、これだけ高水温が続いていると、共生する褐虫藻が逃げ出したサンゴやイソギンチャクは漂白されたかのように白くなり、水中の景観が一変した状態が続いている。毎年、この時期にサンゴやイソギンチャクの色が褪せて、白っぽい色に変わるのは、夏の風物詩みたいなもので、水温の下がる9~10月くらいからまた徐々に元の色を取り戻し、冬には元の元気な姿に戻る。
じつは真っ白になったサンゴやイソギンチャクは美しく、水中写真を撮る上では、最高にイケてる背景になる。淡く涼しい透明感のある写真を撮るのなら、この時期はとても背景に恵まれた時期なのだ。これまで、そんな呑気なことを言っていられたのも、秋になって水温が下がれば元の元気な姿に戻ることを知っているからだった。ところがさすがに今年はちょっと心配になった。このまま白化した状態が長く続くようだと、本当に彼らは死んでしまうかもしれない……。
白化が進み骨格だけになった死サンゴには無機質の岩と同様に藻が付き、時が経てば地形の一部となる。これは生態学的には遷移ともいえるわけだが、サンゴやイソギンチャクが死んだ、一見荒廃したように見える水中景観は決して美しいものではない。勝手な言い分だが、自分のフィールドのサンゴはいつも美しいままであってほしいし、いきいきした状態であってほしい、という人間側の勝手な思いも同時に持っている自分がいる。
9月半ばに大型の台風18号が来て、水温は一気に27~28℃台へと落ち着いた。そして、意外にも白化していたサンゴの多くがなんとか持ちこたえたようで、ポリプの状態を見るとまだ元気で、大事には至らずに済んだようだ。もしかしたら、サンゴに耐性が出来ているのかもしれない。これから褐虫藻が戻って来て、色が変わっていく様子もじっくり観察してみようと思う。