クラゲの集まる楽園 能登島の海藻にまつわる物語 Vol.9

アマモの園

石川県・能登島の海は、夏29℃、冬は5℃と寒暖の差があるため、海の四季をはっきりと感じることができます。その季節ごとの変化を如実に表してくれるのが海の植物である海藻や海草です。
そして、海と人が共に暮らす「里海」という理想郷が存在する能登島の海中には、海藻の森が広がっています。海藻で見る四季の移り変わり、変化する海中環境、それに合わせて繰り返される生態行動など、ひとつひとつの海藻にまつわるストーリーを、能登島の海藻に魅せられたガイド・須原水紀さんが美しい写真とともに紹介します。

待ちに待った季節が訪れた。というのも、クラゲである。能登島は1000mを超える富山湾に面しながらも、七尾湾という閉鎖的海域が隣り合っているためか、独特な生態がある。その一つがクラゲの存在。3月に入ると島の周辺を漂う様々なクラゲに出会う。その数は数百種だそう。大きなものから小さなもの、形も様々だ。「丸いお椀の淵に足がいっぱい付いている」なんて、クラゲのほんの一部の種類でしかない。この広い海の中で漂い、私の目の前を通り過ぎていく歪な体型をした浮遊体を見ていると、まるで宇宙のようだと思うことがある。意思を持たず、海流に任せて流れる彼らとの偶然の出会い。それは一期一会である。
いや、違う。そうではないのです。このアマモの園に主のように居座るクラゲがいる。今回は居座るクラゲを紹介したい。

ジュウモンジクラゲ

4月が近付くとアマモの背はぐんぐんと伸びて、満開季を迎える。できるだけ花びらがきれいに並ぶ美しい花を探していると、葉には何かといろいろなものが付着しているのが目につく。アマモは「海のゆりかご」として、葉には多くの生き物を養っている。この時期は地中にいる貝やゴカイがアマモによじ登り卵を産み付けるので、その卵塊かと思って視線をずらすも、どうも様子が違うと気になり視線を戻す。すると葉に付着するのは十字架ではないか。まるでブローチみたい。大きいものだと重さに耐えれず葉がうなだれて、こちらも離れまいとして吸盤でしがみついているようだ。これはジュウモンジクラゲ。葉っぱにくっつき腕を大きく開いて、流れるエサを獲っては真ん中にある口に運び食べるそうだ。お椀型のクラゲと同じく、クラゲの一種であるが泳いだり漂ったりすることがないため、一生同じ葉の上で生涯を終えるのだと聞いた。しかし、この長い腕の先にある触手のくっつきを使って、うなだれる葉から、より強い葉へ乗り移っていく姿を目撃することもある。

アサガオクラゲ

同じく葉に付着するクラゲの一つに「アサガオクラゲ」がある。ジュウモンジに比べるとオシャレな容姿が可愛らしく、被写体としても非常に人気がある。また、「シャンデリアクラゲ」というガラスの装飾品が散りばめたようなゴージャスなクラゲや、ラッパのような形をした「ムシクラゲ」なども、このアマモの園で出会うことができるクラゲだ。

エダアシクラゲ

そして、「エダアシクラゲ」は浮遊することもできるがアマモや海藻の葉の上でよく見かけるクラゲである。足の先が枝分れしていることからこの名がついたそうだ。なんと、大きさは大きいもので0.5cm前後であるため、見つけるのは非常に困難であるが、アマモの開花時期限定の貴重なクラゲである。
能登島のアマモやホンダワラの森の中では、夏に向かって週替わりのようにして、いろんな種類のクラゲがたどり着く。明日はいったいどんなクラゲに巡り合えるだろうか。

須原 水紀(すはら・みずき)さん
生まれ故郷である能登のダイビングサービス<能登島ダイビングリゾート>でガイドとして勤務。海藻への愛と情熱はピカイチ。また、マクロ生物も大好きで、海藻に付くマクロ生物を探し出す眼は「顕微鏡の眼力」といわれるほど。

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AUTHOR

Takeuchi

DIVER ONLINE 編集部

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