「里海の持続可能な漁法 もずく漁」 能登島の海藻にまつわる物語 Vol.10

ホンダワラの森

石川県・能登島の海は、夏29℃、冬は5℃と寒暖の差があるため、海の四季をはっきりと感じることができます。その季節ごとの変化を如実に表してくれるのが海の植物である海藻や海草です。
そして、海と人が共に暮らす「里海」という理想郷が存在する能登島の海中には、海藻の森が広がっています。海藻で見る四季の移り変わり、変化する海中環境、それに合わせて繰り返される生態行動など、ひとつひとつの海藻にまつわるストーリーを、能登島の海藻に魅せられたガイド・須原水紀さんが美しい写真とともに紹介します。

保育園跡の私どもの施設の園庭では、ソメイヨシノが過ぎて八重桜が開いた。海ではアマモの開花がピークを迎え、ホンダワラの森も背高くまっすぐに水面を触れる。温かな陽が森を柔らかく包み、魚たちが日向に誘われるように森を行き交う。魚も植物も成長の勢いは増すばかりで、日ごとに海は賑やかさを取り戻していく。

この時期になると軽装になった漁師が小舟で海面を行き交う。私が潜っているすぐ横を、箱メガネで覗いている。手には熊手のような竹細工。私が海から顔を出して目が合うと、優しく話かけてきた。
「モゾコいや探しとれんけど、だいぶ出て来とるけ。」
「ほやね、あっちの方にいっぱいついとるみたいやったよ。」
「モゾコ」と漁師は言うけれど、これは「モズク」のことである。七尾産のモズクは「絹もずく」と言われ、とても繊維が細くて歯ごたえが良い。トロトロとした粘りと一緒に酢の物にして食べるととてもおいしい。熱いお湯にさっとくぐらせると、抹茶のような鮮やかな緑に色が変わり、見た目も美しく春の風物として高く取引されるそうだ。

モズク漁

さて、モズクはホンダワラに絡みつく様にして、水の冷たい冬から春にかけて出てくる。能登島の漁師は朝方の風が降りる前の静かな時間を見計らい、小舟を出して水面に越しにモズクを探す。手にする竹製の熊手のような道具は、ホンダワラに絡むモズクをすくようにして採るための手作りの道具。ホンダワラから優しくすき採れば、明日もここでモズクが採れる。根こそぎホンダワラを引っこ抜けば、明日どころか翌年の漁はできないであろう。持続できる方法を考えるこだわりの漁法。

漁師さんと熊手のような竹細工

こだわりはお手製の道具にまでおよぶ。竹の熊手は裏山の竹を暦に合わせて切り取ってきた。暦を合わせなければ竹はもろく壊れやすくなると言う。冬の間にこしらえた竹細工はデザインとしても美しい。使いやすいものは自ずと美しくなるのだと語ってくれた。
「漁師っちゅうもんは道具も作れなダメやと思う。どうやったら使いやすいか、自分でやってみて、考えて作らな、本当の漁師になられんと思っとる。」「あるだけ全部採ってしまわんと、長く(漁を)するためにどうすりゃいいがんか、考えてやっていかなな。」
そして物憂げに付け加えた。
「この道具も私しか作られる人おらんくなった。これからどうやってモゾコを採っていくげんろな。」
里山里海の高齢化は深刻になり、持続できる手法が継続できない。先人の工夫が無駄にならないように、どうにか繋いでいく方法はないものだろうか。

撮影会

私ども能登島ダイビングリゾートでは「能登の里海」をテーマとした水中撮影会を行っております。水中撮影を通して能登の里海を深く知って頂き、地域との交流を図ることを目的として企画いたしております。少しでもこの村に生まれた漁師の生き方に迫り、能登の自然の豊かさと食の安全を体感できる取り組みとして継続させたいと思っております。

須原 水紀(すはら・みずき)さん
生まれ故郷である能登のダイビングサービス<能登島ダイビングリゾート>でガイドとして勤務。海藻への愛と情熱はピカイチ。また、マクロ生物も大好きで、海藻に付くマクロ生物を探し出す眼は「顕微鏡の眼力」といわれるほど。

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AUTHOR

Takeuchi

DIVER ONLINE 編集部

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