八重干瀬沖海底遺跡群第1地点 『プロビデンス号』の座礁地 水中考古学 Vol.24

陸の遺跡とは違いまだ手つかずのものが多い水中遺跡、遺物の数々。そんな、水中に眠る日本各地の遺物を追う。第24回目は沖縄県・宮古島。サンゴ礁の群生地としてダイバーらに親しまれる八重干瀬では、18世紀後半に沈没したとみられるイギリス軍艦の残骸が見つかっている。学際的な研究を通じ、この軍艦の実態を明らかにすることが調査チームの目下の課題となっている。

【船体のパーツ】
金属製品。どのような部分に使用されていたのか、今後の研究が必要である

沖縄県の宮古島、その北方の沖合に「八重干瀬」と呼ばれる巨大で美しいサンゴ礁群が発達している。その大きさは南北17㎞、東西6.5㎞に広がり、ふだんはそのほとんどが海中に没しているが、春から夏にかけての大潮低潮時には広大な面積が島のように姿を現すことから「幻の大陸」と愛称されている。美しいサンゴ礁の群生地であることから、スクーバダイビングやスノーケリングも盛んである。

しかし、このようなサンゴ礁海域は船にとってはきわめて危険な暗礁海域である。古来より、この付近の海域を航行する多くの船がこのサンゴ礁によって行く手を阻まれ、座礁・沈没を余儀なくされたであろうことは想像に難くない。実際、この海域は船が海難事故に遭遇した証拠となるいくつかの水中文化遺産が発見されている。

今回はそんな水中文化遺産の1つを紹介しよう。時代は琉球王国時代も後半となった1797年。イギリス軍艦『プロビデンス号』(400t、3本マストの帆船)が海難事故に遭遇し八重干瀬で座礁・沈没した。船長はウィリアム・ブロートン。船が沈没した18世紀後半は、琉球王国の統治する海域に「異国船」と呼ばれる西欧の船がその姿を現すようになった時期である。その先駆けともいえる船がこの『プロビデンス号』である。この船は北太平洋海域の探検を目的としており、北は北海道や千島、南は琉球列島の測量を行っている。

2008年、沖縄県立埋蔵文化財センターによって八重干瀬の潜水調査が実施され、水深約17mの海底で『プロビデンス号』と考えられる異国船の残骸が発見された。海底には積み荷として鉄のインゴット、船員の持ち物として中国産陶磁器やヨーロッパ陶器・ガラス瓶・ガラスビーズ、船体の残骸である金属製品などが散乱することが明らかとなった。とくに注目されたのは、船体の一部であった小さな金属製品に「←」マークが刻印されていたことである。

【鉄のインゴット】
池間島には過去に引き揚げられた同様の鉄製品が保管されており「←」マークが刻印されている

【ワイン瓶】
比較的厚みのある底の部分が残されており、上底状になっている

【中国清朝磁器】
琉球列島で確認される異国船の残骸からは中国産陶磁器が発見される

じつは、宮古島の北に位置する池間島には、過去に『プロビデンス号』から引き揚げたと伝わる鉄のインゴットが2つ保管されている。その鉄のインゴットにも同様の「←」マークが刻印されていることが知られていた。海底で新たに発見されたものと、過去に引き揚げられたものの刻印が一致した。  我々の『プロビデンス号』の調査はまだ始まったばかりである。今後、さらに詳細な海底調査を行って遺跡の状況を明らかにするとともに、『プロビデンス号』が寄港した北海道やマカオ、本拠地であるイギリスにおいて学際的な研究体制を構築し、『プロビデンス号』の実態を明らかにしていきたい。

【木製滑車】
船には多量の滑車が使われる。材質を調べる事によって生産地を同定することもできるかもしれない

考古学3つの原則

「遺物には触らない」「遺物を動かさない」「遺物を取り上げない」

考古学では何がどこにどのようにあるかを確認することがもっとも重要です。3つの原則を守り、遺物かな? と思うものがありましたら、DIVER編集部までお知らせください! >>hp@diver-web.jp

写真=山本 遊児(やまもと・ゆうじ)さん

水中文化遺産カメラマン/アジア水中考古学研究所撮影調査技師/水中考古学研究所研究員/南西諸島水中考古学会会員/The International Research Institute for Archaeology and Ethnology 研究員

>>this is the link with your pubblication…under your Picture:
http://membership9.wix.com/iriae#!yamamoto-biografia/cddr

 

文・解説=片桐 千亜紀(かたぎり・ちあき)さん

沖縄県立博物館・美術館 主任学芸員/沖縄考古学会会員/日本人類学会会員/アジア水中考古学研究所理事/南西諸島水中文化遺産研究会副会長

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Takeuchi

DIVER ONLINE 編集部

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