吉野海岸沖海底遺跡 水中考古学 Vol.30

陸の遺跡とは違いまだ手つかずのものが多い 水中遺跡、遺物の数々。そんな、水中に眠る日本各地の遺物を追う。 第30回目は沖縄県・宮古島。 島内のビーチ、吉野海岸の沖合には いにしえの時代に海難事故により 海に没したイギリス船が眠っている。

【沈没船の積み荷】
大きいものは3mを超える巨大な石材。方形に加工されている。材質は花崗岩

【石材】
サンゴ礁が 発達するリーフの間に落ち込んだ石材。船が沈没し、 木造の船体が消滅した後、落ち込んだと考えられる

ゴールドラッシュ、それは、アメリカ西海岸のカリフォルニア州で金鉱が発見され、世界中を興奮させたアメリカ西部開拓史上、とても重要な歴史的出来事である。人々はアメリカ東部だけでなく、世界中から集まってきた。カリフォルニア行きを知らせる船のポスターは、アメリカ東部はもちろん、遠くヨーロッパやオーストラリア、中国の主要な港にまでも貼られていたという。このゴールドラッシュを契機に、かなりの数の中国人がアメリカに移住してきたが、そのほとんどは自らの意思というよりは、「苦力(※“クーリー”と読む。中国語が語源)」という一種の奴隷のような形で送られてきたものだった。

【ガラス瓶】
沈没した船に積まれていたものか、後世に紛れ込んだものか、研究が必要である

ここまで読んで、いったいこの話は何なのだ、沖縄の、そして海の雑誌に関係があるのかと疑問に感じられたかたは多いと思う。ところが、おおいに関係がある。ゴールドラッシュによって、アメリカでは西部開拓が進展し、西部と東部を結ぶ大陸横断鉄道の建設が急ピッチで進められることになった。そこに、大量の苦力が労働力として投入された。多くの苦力たちは厦門(あもい)や香港の港を拠点として、船でアメリカ西海岸に送られていったが、そのなかには、道半ばにして海難事故によって琉球列島に漂着・座礁した船もあったことが文献で知られている。宮古島吉野海岸沖で座礁・沈没した船にはそんな苦力たちが乗っていた。1853年(ペリー来航の年である!)、船員30名、苦力243名を乗せたイギリス船が広州を出港してサンフランシスコに向かったが、台風による海難事故に遭遇し、宮古島新城村後之浦(現在の吉野海岸近く)より500mの沖合いにて座礁・沈没した。この事故の生存者は船員6名と苦力24名のみであり、船員24名と苦力219名もの命が海の犠牲となった。

【方形の石材】
海底に多量に散布するが、同じ形をしたものがいくつもあり、規格的な製品だったことがわかる

近年、水中考古学の調査によって、この事件の船と考えられる沈没船遺跡が発見された。海底には銅板などの船の残骸の他、おびただしい量の大型の花崗岩建築材が散乱していた。アメリカで使用するため、出港地の広州で積載された建築材だろう。この海域は透明度が良く、サンゴ礁が発達して多くの魚が群れて夢のように美しい景観を見せる。しかし、この海域で起こった、アメリカにすら到着できなかった苦力たちの悲惨な事故の証拠も、海底にはしっかりと残されている。

【緑色の銅板】
画面内の緑色の板は、銅でできている。木造の船を保護するために船の外壁に張られていたものと考えられる

考古学3つの原則

「遺物には触らない」「遺物を動かさない」「遺物を取り上げない」

考古学では何がどこにどのようにあるかを確認することがもっとも重要です。3つの原則を守り、遺物かな? と思うものがありましたら、DIVER編集部までお知らせください! >>hp@diver-web.jp

写真=山本 遊児さん

水中文化遺産カメラマン/アジア水中考古学研究所撮影調査技師/水中考古学研究所研究員/南西諸島水中考古学会会員/The International Research Institute for Archaeology and Ethnology 研究員

>>this is the link with your pubblication…under your Picture:
http://membership9.wix.com/iriae#!yamamoto-biografia/cddr

 

文・解説=片桐 千亜紀さん

沖縄県立博物館・美術館 主任学芸員/沖縄考古学会会員/日本人類学会会員/アジア水中考古学研究所理事/南西諸島水中文化遺産研究会副会長

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Takeuchi

DIVER ONLINE 編集部

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