南海の放浪カメラマン、ミクロネシアを語る

9/1に成田から直行便が就航することで、注目度が日増しに高まっているチューク。チュークは、ミクロネシア連邦4州のうちの1つで、先日ミクロネシアの「伝統」と「革新」をテーマに、南海の放浪カメラマンの異名を持つ道城征央氏がセミナーを開催。ミクロネシアの素顔とは?

第153回海洋フォーラムとして、笹川平和財団ビルで開催

600以上の島々からなるミクロネシア

太平洋の北半球、赤道に沿って607の島々が広く分布するミクロネシアは、ミクロネシア連邦とマーシャル諸島共和国からなる。道城さんは2007年に初めてチューク諸島を訪れた。美しいサンゴ礁に縁取られた無人島・ジープ島に魅せられて、ミクロネシアへ通うようになったという。

「600以上の島々からなるミクロネシアを1つのエリアだけで知ることはできません。他の島はどうなっているのか知りたくなり、ポンペイ、コスラエ、ヤップ、マジュロなどを訪れました。行く前にはミクロネシアは発展途上国で貧しいという先入観を持っていました。行ってみると確かに物質的に豊かとはいえませんが、島民がみな明るい。しかもそれぞれにユニークな自然環境や文化があるのがおもしろく、通うようになりました」

ダーウインの沈降説を 目の当たりにできるミクロネシア

進化論で有名なダーウインは、サンゴ礁生成理論(沈降説)を唱えている。火山島が沈降するにつれて造礁サンゴが成長し、裾礁(きょしょう)から堡礁(ほしょう)、環礁(かんしょう)を形成する。ミクロネシアはダーウインの沈降説どおりのサンゴ礁が見られる場所でもある。

「ヤップやポンペイ、コスラエでは、島の海岸線にサンゴ礁が発達する裾礁、チューク諸島は島が沈降したことで島の海岸線から離れた場所にサンゴ礁が連なる堡礁、マーシャル諸島のマジュロとクワジェリンでは島は完全に沈降してサンゴ礁だけが残る環礁が見られます。飛行機で空から島々を眺めると、それぞれ特徴的なサンゴ礁があることに気づくと思います」

コスラエで見られる裾礁

飛行機から見えた堡礁。島とサンゴ礁との間の距離が開いていき、そこに海水域が広がるというものです。ここまで来るのに何年かかっているのでしょうか?

ポンペイにあるアンツ環礁。まさに環礁で、リング状になっているサンゴ礁のなかにはひとつも島もありません

ミクロネシアのユニークな自然や文化

ミクロネシアの島々に住む人たちはどこから来たのだろうか。ルーツは中国大陸から、新天地を求めて島伝いに航海を続けてたどり着いた人々で、オーストロネシア語族が起源だ。島々に定住した人々は、自然環境や長い歴史によって、島ごとに独特の文化や生活習慣が発達させた。道城さんは取材を基にユニークな特徴を紹介する。

ヤップは今も石のお金が有効!

「ヤップ島の各所に、古い時代の石のお金があります。石材はパラオで切り出したものをヤップまで運んできたものです。石のお金にはそれぞれストーリーがあって、いつの時代にどこからどう運ばれてきたのか、どうやって加工したのか、そのストーリーの大変さによって価値が変わります。じつは石のお金いまでも使われています。私たちが日常で使うお金は物を買うときですが、石のお金は違います。値段が付いていないものに使います。たとえば何か困りごとを解決してもらうときや相手のことを傷つけてしまったとき、「これでお願いします。これで許してください」と依頼や謝罪に使われているんです。石のお金は誠意を示すために使われています」

名物の石貨ですが、人間の大きさと比べるとごらんのようです。大きいモノは人間の背丈以上

キリスト教がもっとも色濃く根づく島、コスラエ

「ミクロネシアの宗教は、もともとは日本と同様に自然の中に神がいる自然信仰だったと思われます。大航海時代に多くのスペイン人が訪れ、そのときにキリスト教が持ち込まれました。いちばん強く影響を受けているのがコスラエです。島には美しい教会があり、日曜日には仕事を休み、大半の島民がおめかしをしてミサに訪れます。これほど強いキリスト教の信仰心は、ミクロネシアの他の島では見られません」

日曜日は安息日。ホテルでさえアルコールの販売をしません

大人数を収容できる教会

チューク諸島 太平洋戦争激戦地、60隻以上の船が沈む

「チュークには堡礁があることはお話しましたが、堡礁が天然の防波堤になり、内海は穏やかなことから太平洋戦争中に多くの日本軍の船が停泊していました。それが一夜にして撃沈されて、チュークの海の中に沈んでいます。大半が民間から徴用された船のため軍艦はほとんどありませんが、浅い場所にあるもの、形の残っているものは、ダイビングポイントになっています。中でも富士川丸は保存状態もよく、ハリウッド映画の「タイタニック」の撮影も行われています」

『富士川丸』の船首には、いつ行っても小魚が群れている

ポンペイ 島の互助システム「カマテップ」

「ポンペイには酋長を中心とした結びつきがあり、日本でいう冠婚葬祭などの儀式を伝統的な方法で行っています。これらの儀式はカマテップといい、島の人たちが協力して執り行います。あるとき、ポンペイでお祖母さんの一周忌に参加しました。ブタの丸焼きを作り、サカオ(コショウ科の植物であるシャカオをハイビスカスの皮とともに絞ったもの)をココナッツの器に入れて飲んだりします。サカオは儀式には欠かせない大切な飲み物ですが、味は……、決しておいしいものではありませんでした」

カマテップの場では、高い場所はナンマルキやナンケンという首長クラスの人やその奥さんしか座ることが許されません。柱に寄りかかっている人はナンマルキという大酋長です

伝統儀式「カマテップ」でサカオを作っている風景です。いわゆる鎮静作用がある嗜好品です(アルコールとは違います)

サカオは、元々はカマテップ(冠婚葬祭)などの場で位の高い人しか飲めなかったものですが、今では街中で飲むことができます

ミクロネシアが抱える問題

道城さんはミクロネシアが抱える問題として、都市化とゴミ問題を上げる。海洋汚染の元凶であると世界的に使用の規制が叫ばれているプラスティック問題は、ミクロネシアも例外ではない。

「ミクロネシアを始め南洋にはゴミという単語すら存在しません。なぜなら捨てたものは自然に還るものという考え方があるためです。しかし、プラスティック製品は自然に還りません。海に捨てられたゴミがサンゴにからまっているのがよく見られます。ゴミ問題を解決しようと学生など若い世代が立ち上がっていますが、ゴミ処理場もありませんから問題は深刻です」

コスラエにあるゴミの最終処分場です。南洋の島々ではゴミ廃棄物問題が深刻で日本の「大洋州地域廃棄物管理改善プロジェクト」という支援によって解決しようとしています

ミクロネシア連邦の首都であるポンペイは、交通量も多く、そこには途上国というイメージはあまり強くありません

「伝統」と「革新」に揺れるミクロネシア

ミクロネシアには酋長を中心としたコミュニティやカマテップのような互助システムがあり島民は助け合って生きてきた。だが急速な欧米化、核家族化によって、島の生活を支えてきたコミュニティが希薄になりつつある。ミクロネシアは「伝統」と「革新」に揺れている。

「伝統を守るのか、発展し前進していくのか、一長一短があり一概にどちらがいいとはいえません。世界情勢、自然環境が変化する中で、ミクロネシアがどう進んでいくのか、今後も見守っていきたいと思っています」

日本ではなかなか見られない笑顔にチュークで出会った

 

道城征央さん(フォトジャーナリスト/水中カメラマン) 小笠原、沖縄、ミクロネシア方面を中心に取材することから「南海の放浪カメラマン」の異名を持つ。「人と自然のかかわり方」をテーマに、フォトリポートを執筆するとともに講演活動を行う。現在「埼玉動物海洋専門学校」の講師も務める。

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Amano

DIVER ONLINE 編集部

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