精密地形図が語る海底遺跡 水中考古学 Vol.37

陸の遺跡とは違いまだ手つかずのものが多い水中遺跡、遺物の数々。そんな、水中に眠る日本各地の遺物を追う。陸の遺跡とは違いまだ手つかずのものが多い水中遺跡、遺物の数々。そんな、水中に眠る日本各地の遺物を追う。第37回目は沖縄県の石垣島。その昔、屋良部沖は港として利用されていた記録が古文書に残されている。西海岸の外海に面したこの場所が、なぜ港として利用されたのか。最先端の研究方法でその事実が明らかになった。

1. マルチビームで作成した地図の海底で検証を行う菅浩伸教授

陸上の遺跡調査は詳細な地形図を基に遺物の分布図を作成するのが常である。しかし、海底遺跡調査を行う水中考古学者にとっては、このようなあたりまえの調査を行うことすらままならない。頼りになる地図がないのである。

2.マルチビーム測深によって作成した石垣島屋良部沖の精密海底地形図と海底遺物(鉄錨・壺)の分 布。古文書の記載にある海底の隠れ根(SR)が発見され、そこに鉄錨(6、7)が残されていることが明らかになった

琉球列島で初めての四爪鉄錨や沖縄県産陶器壺が発見された石垣島西岸の屋良部沖は、17世紀後半~18世紀に港として利用されていたことが古文書の記録に残されている。西海岸の外海に面したこの場所が、なぜ港として利用されたのであろうか。屋良部沖海底遺跡については2014年9月号で紹介し、2015年12月号で水中調査の様子を紹介したが、今回はこの海底遺跡で実施された、最先端の研究方法とその成果について紹介したい。

3. 従来の地形図にプロットした海底遺物の分布。 赤枠がマルチビーム測深による海底地形図の範囲

水中考古学を陸上の考古学と同様のレベルで行うためには、海図や従来の海底地形図以上の精度を持つ地形図が必要となる。1990年代後半から実用化されてきたマルチビーム測深機は、三次元的に海底地形を測ることができる画期的な装置である。しかし、この装置はおもに大型船に搭載されるものであったため、浅海底の測量は難しかった。そこで、我々は小型船舶に取り付けることができるマルチビーム測深機を導入し「写真4」、水深1~400mまでの海底地形を1~2mの水平解像度で地図化するという、世界最高水準の海底地形測量に成功した。これによって石垣島西海岸の名蔵湾では、大規模な沈水カルスト地形と氷期の河川跡とみられる蛇行した谷を発見し「図5」、その上に広がる大規模なサンゴ群集も見つけ出した。人口約5万人の石垣島沿岸域でこのような未知の地形と大規模な生物群集が発見されたことは、人里に近い沿岸域であってもいまだ科学的知見がきわめて少ないことを物語っているのである。

4. マルチビーム測深の調査風景

この最先端技術を水中考古学調査に生かすため、屋良部沖海底遺跡で沖縄県立博物館と東海大学、九州大学によるコラボレーションが生まれた。「図2」は、マルチビーム測深機によって作成した石垣島屋良部沖の精密海底地形図である。従来の海底地形図にプロットした遺物の分布「図3」と見比べてみてほしい。詳細な地図が出来ると、海底に散らばる遺物の分布を正確にマッピングすることが可能となり、陸上の遺跡で実施されている考古学調査と同じ精度で水中文化遺産の全体像を可視的に把握することができる。そこには古文書に錨のロープを擦り切ってしまうと記述された隠れ根が現れ、2つの鉄錨が残されていることが発見された。そして、この隠れ根と沿岸のリーフに囲まれた湾は港にするには絶好の場所であり、その結果、遺物が大量に残されたことが明らかになったのである。

5. 石垣島名蔵湾で発見された沈水カルスト地形

考古学3つの原則

「遺物には触らない」「遺物を動かさない」「遺物を取り上げない」

考古学では何がどこにどのようにあるかを確認することがもっとも重要です。3つの原則を守り、遺物かな? と思うものがありましたら、DIVER編集部までお知らせください! >>hp@diver-web.jp

写真=山本 遊児さん

水中文化遺産カメラマン/アジア水中考古学研究所撮影調査技師/水中考古学研究所研究員/南西諸島水中考古学会会員/The International Research Institute for Archaeology and Ethnology 研究員

>>this is the link with your pubblication…under your Picture:
http://membership9.wix.com/iriae#!yamamoto-biografia/cddr

 

文=菅 浩伸さん

九州大学先導的学術研究拠点 浅海底フロンティア研究センター センター長/九州大学大学院地球社会統合科学府 主幹 教授/専門は浅海底地形学、サンゴ礁地形学、自然地理学。

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Takeuchi

DIVER ONLINE 編集部

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