ダイビングと頭痛  Dr.山見のダイバーズクリニック Vol.7

「Dr. 山見のダイバーズクリニック」は、ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生に解説いただいている、月刊ダイバーの好評連載です。「ダイバーオンライン」では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。 今回のテーマは「頭痛」。ダイビング中やダイビング後に頭が痛くなること、ありますよね? ダイビングと頭痛の関係をきちんと知って、正しい予防法をとりましょう。(月刊ダイバー2016年1月号掲載)

慢性の頭痛持ちでも潜れる?

—慢性的に「頭痛」に悩まされている人は意外に多いですね。
山見 
 慢性頭痛には、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などがあります。減圧症による頭痛も含めて、違いを表1に示しておきます。

■表1 慢性頭痛の特徴

※片頭痛と緊張型頭痛の両方の特徴を持つ混合型頭痛もある。※数秒〜30秒程度、発作的な痛み(ピリピリとした違和感)を繰り返すときは三叉神経痛または後頭神経痛の可能性が高い。痛みの部位が顔面であれば三叉神経痛、頭の後ろであれば後頭神経痛を疑う。※鼻づまりが続いていて、額、目の奥、頬などに痛みがあるときは副鼻腔炎を疑う。※血圧が高いときは高血圧性の頭痛も疑う。※首に近いところが痛く、手のしびれ伴うときは変形性頚椎症を疑う。※顎(あご)のあたりに痛みがあり、動かすと関節から音がする、口を大きく開くことができないなどの症状があるときは顎関節症を疑う。※急激に目が疲れたりかすんだりして嘔吐を伴うときは緑内障を疑う。※風邪やインフルエンザでも頭痛が続くことがある。

ー慢性の頭痛であれば、潜っても支障はないのでは?
山見 
いずれの頭痛も、痛みや前兆が見られるときはダイビングを控えることが基本です。注意力が低下し事故を招くことがあるからです。ガイドラインでは、月に2回以上頭痛がある方は、専門医にアドバイスを受けることがすすめられています。

ーどんな点に気をつけるべきでしょうか?
山見 
片頭痛では、視野の一部が欠損したり、手足の動きが悪くなることもあります。このような合併症が現れたときは溺れや潜水障害にかかるリスクが特に高まります。
その他にも、目がチラチラする、吐き気やめまいがする、物が二重に見えるなどの前兆や合併症があります。初期には軽くても、時間とともにひどくなることがあるためダイビングは控えましょう。

ー「緊張型頭痛」の注意点は?
山見 
緊張型頭痛は肩や首の凝りを伴います。ダイビングでは、タンクを長時間背負って歩いたり、同じ姿勢を長く続けることが悪化の原因になります。
「群発頭痛」は痛みが激しいことが多いので特に危険です。時間とともにひどくなることがあるので、軽くてもダイビングは中止しましょう。

ダイビングで見られる主な頭痛

ー頭痛持ちでなくても、ダイビング中に頭が痛くなる人は多いですよね。
山見 
陸上ではあまり見られない二酸化炭素蓄積性頭痛、寒冷頭痛、マスクストラップによる頭痛などがあります。

ーいちばん多いのは?
山見 
身体に二酸化炭素が溜まったときに発生する二酸化炭素蓄積性頭痛です。運動量に比して換気量(特に呼吸回数)が少ないときに見られます。

ーどうして頭が痛くなるのですか?
山見 
身体に二酸化炭素が溜まると、酸素不足と認識して頭の血管が広がります。血管が広がると周囲の神経(おもに三叉神経)が刺激されて頭痛が発生します。

ーどんなときに多いのでしょう?
山見 
ダイビング後半からエグジット時にかけて発生します。多くは両側性でズキンズキンとした拍動性の痛みです。ひどいと吐き気を伴うこともありますが、安静にしていればエグジット後3時間以内に消失します。

ー水泳の頭痛と同じですか?
山見 
そうです。水泳時に発生するスイマー頭痛もおもに二酸化炭素蓄積性頭痛です。息こらえ時間が長かったり、息継ぎが十分できないときに発生します。

ー防ぐにはどうすれば?
山見 
息こらえやスキップ呼吸をしないことです。

ーダイビングがきっかけで、片頭痛が起きることもあるそうですね。
山見 
ダイビングのあと発生することもありますし、二酸化炭素蓄積性頭痛に引き続き発生することもあります。

ー予防法はありますか?
山見 
誘因を避けることが基本になります。一般的な誘因として挙げられているのは、アルコール、チーズやチョコレート、ストレス、運動、高気温、不規則な睡眠、疲労です。
ダイビングに関連する誘因には、重い器材を持つ、激しい運動をする、ボートの揺れ、船の燃料の臭い、エンジン音、水中の音、太陽光線などがあります。

ー肩凝りから頭痛がひどくなるダイバーもいますね。
山見 
それは緊張型頭痛ですね。肩から首、後頭部にかけて生じる持続的な頭痛です。日常生活では、パソコンに長い時間向かうなど、同じ姿勢を長く続けたときに発生しやすくなります。
ダイビングでは、重い器材を長い時間担いだとき、低水温や緊張のために首や肩に力が入っていたときなどに発生します。

ー防ぐには?
山見 
日常から姿勢に気をつけて、首の後ろの筋肉をリラックスさせること。また、背屈運動や水泳などをして、首の後ろの筋肉を鍛えると効果があるといわれています。

ーマスクのストラップでも頭痛が起こるのですか?
山見 
機械的な刺激によるもので、マスクだけでなく、フードの締め付けで発生することもあります。日常生活ではメガネやイヤリングをしたときに見られることもあります。これらは、頭の表面にある三叉神経や後頭神経が刺激されたことによる頭痛です。

ーそのほかにもダイビングに関連する頭痛はありますか?
山見 
流氷ダイビングなど、低水温域で潜ると「寒冷刺激による頭痛」が発生します。エントリー直後に発生して、多くは20〜30秒で治ります。これは、三叉神経が刺激されるために発生する頭痛で、日常生活では、冷たい食べ物を飲んだり食べたりしたときに見られます。

減圧症で見られる頭痛の特徴

ー頭痛は減圧症の症状の1つですね?
山見 
ダイビングのあとに頭痛が現れ、持続するときは、減圧症を疑う必要があります。後頭部から頭頂部にかけての痛みが多く、頭が何かに被われている感じがすると訴える方もいます。

ー激しく痛むわけではないのですね?
山見 
ズキンズキンとした拍動性よりジ〜ンとした持続性のほうが多い傾向があります。手足のしびれやだるさ、力が入りにくいといった症状を伴うときよりは可能性が高くなります。
重症減圧症では、意識の低下、言葉がしゃべれない、目の見え方がおかしい(物が二重に見えるなど)といった症状を伴うこともあります。

ー治療法は?
山見 
応急的には酸素吸入。もっとも効果があるのは高気圧酸素治療です。

頭痛薬を飲んで潜って大丈夫?

ー頭痛薬を飲んで潜ってはいけませんか?
山見 
痛み止めを飲んだときは、ダイビングを控えるのが基本です。薬で痛みが和らいでも、ダイビング中、薬の効果が切れ頭痛がひどくなることがあるからです。ひどくなると吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
また、痛み止めが効いているために、減圧症が発症しても気づくのが遅れることもあります。さらに、痛み止めには気管支喘息を誘発する副作用があることも、ダイビングをすすめられない理由の1つです。

ーいつも飲んでいる片頭痛薬でもだめですか?
山見 
血管を収縮させる片頭痛薬(イミグラン、ゾーミッグ、マクサルト、クリアミン、ジヒデルゴットなど)は、組織の血流を減少させます。また、血管を広げる片頭痛薬(ミグシスやテラナス)は、組織の血流を増加させます。
血管を収縮させる薬は窒素の吸収と排出を遅らせ、拡張させる薬は吸収と排出を促進する可能性があります。いずれの薬も減圧症のリスクを上げる可能性があるので、薬を飲んでダイビングをすることは避けましょう。

知ってました? 副鼻腔からくる頭痛

副鼻腔スクイズや副鼻腔リバースブロックを起こしたときに副鼻腔からくる頭痛が発生することがあります。

副鼻腔スクイズって?

潜降中、鼻腔から副鼻腔に空気が入らないときに副鼻腔スクイズが発生します。副鼻腔炎(蓄膿症)、風邪、アレルギー性鼻炎の症状があるときは鼻粘膜が腫れるため発生しやすくなります。額にある前頭洞と呼ばれる副鼻腔に発生することが多いため、痛みはおもに額から前頭部にかけて見られます。
副鼻腔スクイズを起こしたときは、耳抜きと同じ要領で鼻をつまみ空気を押し込むと痛みが解消されることがあります。ただし何度も行うと粘膜の腫れを悪化させ、浮上のときにリバースブロックを起こすことがあります。

副鼻腔リバースブロックって?

浮上時、副鼻腔の空気が鼻腔に排出されないと発生します。スクイズと同じように、前頭洞に多く見られます。
リバースブロックを起こしたまま海面まで浮上すると、しばらく痛みや違和感が続きます。
リバースブロックによる痛みは、通常、自然に消失しますが、まれに行き場を失った空気が、骨の隙間から脳、眼の奥、顔面などに漏れ出ることがあります。
浮上後、副鼻腔リバースブロックによる痛みがひどいときは、痛み止めを飲むなどして経過をみれば、ほとんどは自然に軽快します。

コラムニスト

山見 信夫(やまみ・のぶお)先生


医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい。

>>ドクター山見 公式webサイトはこちら
http://www.divingmedicine.jp/
*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)

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Koga

DIVER ONLINE 編集部

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