鼻水、くしゃみ、 鼻づまり。やっかいな 「アレルギー性鼻炎」
—「アレルギー性鼻炎」という名称はよく耳にしますが、どういう病気なのでしょうか?
山見 ハウスダストや花粉などの抗原が体に侵入することで生じる、過剰な免疫反応をアレルギーといいます。アレルギー反応のうち、鼻水、鼻づまり、くしゃみなどの鼻炎症状が現れる病気をアレルギー性鼻炎といいます。
—症状が出やすい季節はあるのでしょうか?
山見 アレルギー性鼻炎は、1年中症状が見られる通年性、花粉などが飛散する時期だけ症状が現れる季節性、原因となる抗原が一時的に侵入したときだけ発症する一過性があります。
—花粉症もアレルギー性鼻炎の1つということでしょうか?
山見 スギ花粉症もアレルギーですが、鼻炎、結膜炎、ときに喘息などを引き起こす病気の総称として付けられている病名です。
—喘息だとアレルギー性鼻炎になりやすい、ということはありますか?
山見 気管支喘息やアトピー性皮膚炎などの病気を持っている方は、アレルギー性鼻炎を持っている割合が高い傾向があります。
—アレルギー性鼻炎はダイビングにどんな影響がありますか?
山見 アレルギー性鼻炎で鼻粘膜が腫れると、中耳腔や副鼻腔の気圧外傷(スクイズやリバースブロック)を起こすことがあります。
また、日頃、症状がない方でもハウスダストやダニが多い宿泊施設に泊まった翌日、耳や副鼻腔が抜けなくなることもあります。
薬で症状を抑えて ダイビングをしたいなら
—薬で症状を抑えてダイビングをする人もいますね。
山見 薬を飲んだらダイビングをしないのが基本ですが、現実には薬を使ってダイビングする方が少なからずいます。 通年ダイビングをしている人を対象とした調査では、アレルギー性鼻炎(花粉症を含む)のダイバーは全体の30%近くを占め、そのうちの20%以上の方が抗アレルギー薬を服用してダイビングをした経験があります。
—やむをえず、薬を飲んでダイビングをするときはどんなことに注意するべきでしょうか?
山見 抗アレルギー薬のうち、特に抗ヒスタミン薬には眠気などの副作用があり、ダイビング中、窒素酔いにかかりやすくなるので注意が必要です。副作用が現れやすい薬はできる限り使わないようにしましょう(表1)。
表1
主なアレルギー性鼻炎治療薬の特徴
第1世代抗ヒスタミン薬は、ダイビング時の服用はすすめられないため掲載していない。第2世代抗ヒスタミン薬は第1世代抗ヒスタミン薬よりインペアード・パフォーマンスが少ない。
△=注意、○=念のため注意、◎=第2世代抗ヒスタミン薬の中では推奨
メディエーター遊離抑制薬
(インタール、リザベン、ソルファ、アレギサール、ペラストミンなど)
① 連用により改善率が上昇する
② 効果はマイルドなため効果発現が遅い
③ 鼻閉にもやや効果がある
④ 副作用が比較的少ない
⑤ 眠気がない
第2世代抗ヒスタミン薬
(ザジテン△、アゼプチン△、セルテクト△、ゼスラン△、ニポラジン△、アレグラ◎、ディレグラ◎、アレジオン○、エバステル○、ジルテック△、ザイザル△、タリオン○、レミカット△、ダレン△、アレロック△、クラリチン◎など)
(以下、第1世代と比較した場合)
① インペアード・パフォーマンス(眠気、注意力低下、判断力低下、作業効率低下、集中力低下など)、のどの渇きなどの副作用が少ない
② 症状の改善率が高い
③ 鼻づまりに対する効果は一応ある
④ 効果の発現がやや遅いが※3、持続時間が長い
⑤ 連用すると改善率が上昇する
トロンボキサンA2受容体拮抗薬
(ブロニカ、バイナスなど)
① 鼻粘膜の充血を抑制して鼻づまりを改善させる
② 鼻づまりに対する効果は第2世代抗ヒスタミン薬よりも優れる
③ 鼻水、くしゃみにも有効である
④ 効果発現は1週間で認められる
⑤ 長期連用すると改善率が上昇する
トロイコトリエン受容体拮抗薬
(オノン、シングレア、キプレスなど)
① 鼻粘膜の充血を抑制して鼻づまりを改善させる
② 鼻づまりに対する効果は第2世代抗ヒスタミン薬より優れる
③ 鼻水、くしゃみにも有効である
④ 効果発現は内服開始後1週までに認められる
⑤ 連用すると改善率が上昇する
鼻噴霧用ステロイド薬
(ナイスピー、リノコート、フルナーゼ、ナゾネックス、アラミスト、エリザスなど)
① 効果は強い
② 効果発現に1〜2日かかる
③ 副作用が少ない
④ 鼻水、鼻づまり、くしゃみに効果がある
⑤ 薬が付着した部位だけに効果が見られる
※3=比較的即効性はあるものの、通年性アレルギー性鼻炎の症状を単独で十分改善させるには2週間程度かかる
—抗ヒスタミン薬にもいろいろな種類があるのですね。
山見 第1世代の抗ヒスタミン薬は即効性はありますが、注意力や判断力が低下するためダイビングには向きません。 アレルギー性鼻炎に対してもっともよく使われる第2世代の抗ヒスタミン薬は、第1世代より眠気などの副作用は少ない傾向があります。
第2世代抗ヒスタミン薬の中でも、ほとんど眠気が見られない薬と少ないながらも現れる薬があります1※。
※1=第2世代抗ヒスタミン薬の中でも副作用の現れ方は薬によって差がある。アレグラ、ディレグラ、クラリチンは眠気が見られないといわれている。アレジオン、エバステル、タリオンは眠気がほとんどない
—見極めのポイントはありますか?
山見 表1に注意するべき薬と推奨される薬に印(△、○、◎)を付けておきましたので参考にしてみてください。
—アレルギー性鼻炎に効くのは抗ヒスタミン薬だけでしょうか?
山見 抗ヒスタミン薬以外の抗アレルギー薬は、眠気が少ないので比較的リスクは少ないと考えられています。
服薬は慎重に。自分にあった薬を見極める
—ほかにも服薬時に気をつけたほうがいいことはありますか?
山見 薬の効果は一般的にいわれている時間より長かったり短かったりします。
陸上で効果が見られても水中では効果が見られないこともありますし、陸上では見られなかった副作用が水中で現れることもあります
。 薬が効いてスクイズを起こさず潜降できても、浮上の際にリバースブロックを起こすこともあります。
薬を使ってダイビングするのは慎重であるべきです。
—自分にあう薬の見つけ方はありますか?
山見 1〜2週間飲まないと効果が判定できない薬もありますから、ダイビングに出かける少なくとも1か月程度前から試してみる必要があります。
—どんな点に注意すればいいでしょう?
山見 効果がすぐに見られない薬のほうが眠気などの副作用が少ない傾向があります。また、1剤で効果が現れないときは効果をみながら2〜4剤追加併用することもあります。
副作用が現れやすいとされている抗ヒスタミン薬を1剤服用するより、副作用が見られない抗ヒスタミン薬以外の薬を3〜4種類併用したほうがリスクは減らせると考えられています。
—効果を計る方法はありますか?
山見 耳抜きに対する薬の効果を知るためにオトヴェント(2※)を使ったり、湯船に頭まで浸かり耳の抜け具合を試してもよいと思います。
副鼻腔の抜けは、基本的にはダイビングをしてみないとわかりませんが、耳の抜け具合や鼻づまりの程度と同調することが多いので、それらをもってある程度予想することはできます。
※2=鼻で膨らます医療用の風船。グレープフルーツ大に膨らむ前に耳が抜ければ抜けがよいと判定する
日常生活の予防策で、快適ダイビングを目指すべし
—アレルギー性鼻炎で鼻づまりがあるときは、ダイビングはやめたほうがいいのでしょうか?
山見 陸上でバルサルバ法の耳抜きをして、スムーズに抜ければダイビング可と一応判断します。
息まないと耳が抜けなければダイビングは控えます。
—「オトヴェント」はどのように使うのでしょうか?
山見 耳の抜けやすさを感覚的に判定できない方はオトヴェントを使います。大きく膨らんでも抜けなければダイビングを控えます。
—最後にアレルギー性鼻炎の予防を教えてください。
山見 アレルギー性鼻炎の方は、ダイビング直前に薬を服用するだけでなく、日常の予防が大切です(表2)。薬の効果は限定的なので、日頃から耳管や副鼻腔の通りをよくしておきましょう。
表2
アレルギー性鼻炎の一般的な対策
アレルギー性鼻炎のある方は日常の予防が大切です。
※アレルギーの原因を知るには、血液検査やスクラッチテストを受ける必要があります
ダニ(ハウスダスト)、ガ、ゴキブリが原因の方
ダニや昆虫などは、その死骸やフンがホコリ(ハウスダスト)や寝具の中など、生活環境のいたるところに存在しています。身の回りからダニやハウスダストを完全に除去することは困難ですが、減らせば必ず効果が現れます。こまめに掃除をすることが大切です
① 寝具の洗濯(週に1回)=シーツ、布団カバー、枕カバーをたくさんの水で洗濯する
② 布団干し(週に1回)=布団を干して、両面に掃除機をかけてダニを除去する
③ 部屋の掃除(毎日)=フローリングの場合は、ホコリを舞い上げないように拭き掃除をした後に掃除機をかける。
④ 掃除機の手入れ(2週間に1回)=掃除機の集塵パックを定期的に交換する
⑤ 衣類、布団、暖房器具を収納(季節の変わり目)=ダニの繁殖を防ぐために洗濯や掃除をした後ビニールなどで密閉してから収納する
⑥ ぬいぐるみなどは置かない(常時)
ペット=イヌ、ネコ、ハムスター、モルモットが原因の方
動物に直接触れなくても、室内に浮遊する動物の毛やフケを吸うと症状が現れます。ペットを飼っていない家庭でも、ペットを飼育している人が出入りするとアレルゲンを持ち込みリスクが増えます ① 原因となるペット飼育の中止(常時)
② 中止できない場合は屋外で飼育(常時)=イヌやネコについてはシャンプーをする
カビアレルギーの方
カビの胞子は空中を浮遊するため、吸入するとアレルギー反応を起こすことがあります。カビはダニの餌にもなります
① 部屋の換気(毎日)=湿気がこもらないように風通しをよくする。乾燥と低温を心がける
② カビ取り剤の使用(随時)=発生したカビは市販のカビ取り剤などで殺菌除菌する
③ エアコンの掃除(季節の変わり目)=フィルター掃除を定期的にする
コラムニスト
山見 信夫(やまみ・のぶお)先生
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい。
>>ドクター山見 公式webサイトはこちら
http://www.divingmedicine.jp/
*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)