アレルギー(その1)アレルギー性鼻炎 Dr.山見のダイバーズクリニック Vol.11
「Dr. 山見のダイバーズクリニック」は、ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生に解説いただいている、月刊ダイバーの好評連載です。「ダイバーオンライン」では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。 今回のテーマは「アレルギー」。気管支喘息はアレルギー症状の1つです。既往がある方は少なくありませんが、ダイビングを楽しむ上で問題はないのでしょうか? 「アレルギー」についてお話しいただく1回目のテーマは、気管支喘息と、悩んでいる人も多いアトピー性皮膚炎についてです。 (月刊ダイバー2016年5月号掲載)
気管支喘息の発作は重大トラブル要因
—まず、気管支喘息について教えてください。
山見 アレルギーなどの体質によって気管支が収縮し呼吸が苦しくなる病気です(図1)。
—ダイビングではどういうリスクがありますか?
山見 気管支喘息のリスクは大きく2つあります。1つ目は、水中で発作が起こると浮上のときに肺の空気が排出されず肺胞が破れること(肺気圧外傷1※)。もう1つは、息が苦しくなるために運動能力が低下して溺れることです。どちらのトラブルも、水中で発作を起こした方の一部にしか見られませんが、発症すると生命に関わることがあります。
※1=浮上時、肺胞の空気が膨張して肺が破れる病気を肺気圧外傷または気圧外傷性気胸という。気管支喘息発作が起こると気管支が閉塞し、孤立した肺胞が浮上に際し膨張して肺が破れる。水中で破れると肺の空気が血管に入り、脳動脈ガス塞栓を発症することもある。重症例では死亡する
—ダイビング中は発作を起こしやすいのでしょうか?
山見 ダイビングには喘息発作を誘発する要因がいくつもあります。乾燥したタンクの空気2※、急激な温度変化、運動量の増加、不安、ストレス、海水の誤嚥などです。宿泊先のハウスダストやダイビングポイント周辺の環境が影響することもあります。
※2=タンクの空気はフィルターを通して充填されるため不純物は少ないといわれているが、実際に検査すると微細な粉塵を少なからず含む
—ダイビングの適否基準は?
山見 いろいろな基準が提案されていますが、日常診療では簡略化した基準で判断されます(表1)。しかし、基準をクリアしたからといって、ダイビング中に発作が起こらないとは限りません。気管支喘息の既往のある方は、できるだけ誘因を減らしたダイビングをすることが大切です。
気管支喘息は季節や時間によって、発作の頻度が異なります。季節の変わり目、低気圧が来る前、早朝のダイビングはできるだけ控えるようにしましょう。
■表1
気管支喘息におけるダイビング適否の目安
主に呼吸機能検査(病院で行う検査)とピークフロー検査(自宅で行う検査)(写真1)で評価。以下の1〜6すべてが基準内であればリスクは少ないと判断される。
❶気管支喘息の症状(ヒューヒューや咳)が3年以上ない
❷呼吸機能検査において、努力性肺活量が予測値の80%以上
❸呼吸機能検査において1秒率*1 が70%以上
❹呼吸機能検査において1秒量*2 が予測値の80%以上
❺呼吸機能検査においてβ2刺激薬*3 吸入による1秒率の改善が12%未満
❻ピークフロー値が、ダイビング前の2週間、朝夕常に自己最良値の80%以上
◎付1=吸入ステロイド薬を継続的に使用していても、上記の基準をクリアできればリスクは少ない ◎付2=症状が3年以内に見られた場合でも、ステロイド吸入薬を2週間中止して、2〜6が基準内に収まり、約30分間の運動(12分間あたり1,400mで走行)後、ピークフロー値の変動が10%未満であればリスクは少ない ◎付3=当基準は、気管支喘息患者におけるダイビングの安全性を保証するものではない
*1=最大限まで息を吸った状態から勢いよく息を吐いたときの、初めの1秒間に吐いた空気の肺活量に対する割合
*2=最大限まで息を吸った状態から勢いよく息を吐いたときの、初めの1秒間に吐いた空気の量
*3=気管支喘息で使用される気管支を広げる薬
—「深く潜らないように」といわれることもあるようですが。
山見 「深く潜らなければ大丈夫」とか「発作が出たらすぐに中止すれば大丈夫」などといわれることがありますが、深度が浅いほうが空気の膨張率は大きく、気圧外傷(肺破裂)が発生する確率は高くなります。
また、すぐにエグジットできる場所ばかりではありませんし、発作時に自分だけがエグジットするリスクもあります。
深く潜らず、すぐに浮上できるようにすることはリスクを減らす方法の1つにはなりますが、事故の多くが浅場で起こっている状況から考えると大丈夫とは言い切れません。
肌をいたわりアトピー性皮膚炎の悪化を防ぐ
山見 皮膚の角質に障害があるためバリア機能が崩れ、かゆみや湿疹が慢性的に見られるのがアトピー性皮膚炎です(写真2)。遺伝や環境的な要因が加わって発症します。
—ダイビングは禁止、ではないですよね?
山見 ただれたり、化膿しているときはダイビングをひかえますが、落ち着いているときは問題ありません。
—ダイビングで悪化させない方法はありますか?
山見 ウエットスーツなどで皮膚を刺激しないことが重要です。予防は表2のとおりですが、少し補足しておきます。
まず、レンタルのウエットスーツは部分的に窮屈な箇所が生じることがあるため皮膚が擦れやすくなります。一般にオーダーメイドスーツのほうが脱ぎ着するときの摩擦が少なくなります。スーツをオーダーメイドする際には、内側が起毛の生地を選ぶと無理なく脱ぎ着できます。
ウエットスーツを着るときは、 肌が擦れないようにパウダーを付けたり、水や海水といっしょに手足を通すなどの工夫をしましょう。
■表2
アトピー性皮膚炎を悪化させない方法
①オーダーメイドのウエットスーツを着る
②ウエットスーツの内生地は起毛にする
③着るときはパウダー、水または海水を利用する
④ウエットスーツ着用中はできるだけ動かない
⑤ダイビング後すぐにウエットスーツは脱ぐ
⑥使用後はよく洗い乾燥させて保管する
⑦スーツの下にラッシュガードを着る
⑧当日の朝に副腎皮質ステロイド薬や保湿剤を塗る
⑨ダイビング後は汗と海水を洗い流して保湿剤を塗る
—ウエットスーツを長時間着たままでいるのは肌に悪そうですね。
山見 長時間着ていると蒸れて汗が溜まり、症状を悪化させることがあります。また、ウエットスーツを着て長い距離歩くと皮膚が擦れます。一日中着ていると関節近くが擦れてしまうこともあります。
—真夏など、脱いだウエットスーツがもわっとしていることがあります。
山見 汗や皮脂が長い期間付いていると、ウエットスーツに細菌やカビが繁殖します。細菌、カビ、ダニ、ホコリは、皮膚の状態を悪化させる要因です。保湿剤や塗り薬が付いたままになっているのもよくありません。ウエットスーツはよく洗って、油分もできる限り落として乾燥させてから保管しましょう。
—スーツの下にラッシュガードを着たほうがいいでしょうか?
山見 ラッシュガードを着れば、直接ウエットスーツに付着する薬の量を減らすことができます。また、レンタルスーツには、自分に合わない化粧品や日焼け止めが付いていることもあります。個人持ちのラッシュガードを着れば直接肌に触れずにすみます。
—ダイビング前に薬を塗っても大丈夫でしょうか?
山見 副腎皮質ステロイド薬を塗ったからといって、副作用が出やすいということはありません。
また、ウエットスーツを着たことで肌が傷んでカサつくこともあります。ダイビング直後はできるだけ早く海水を洗い流して、保湿薬を塗りましょう。
—スーツの下にラッシュガードを着たほうがいいでしょうか?
山見 ラッシュガードを着れば、直接ウエットスーツに付着する薬の量を減らすことができます。また、レンタルスーツには、自分に合わない化粧品や日焼け止めが付いていることもあります。個人持ちのラッシュガードを着れば直接肌に触れずにすみます。
ダイビングで蕁麻疹、ホントですか?
ーダイビングをすると蕁麻疹が出る方がいるそうですが。
山見 ダイビングで発生する蕁麻疹には物理性蕁麻疹と減圧症性蕁麻疹があります。物理性蕁麻疹は外的な刺激によって生じる蕁麻疹、減圧症性蕁麻疹は減圧症の症状として現れる蕁麻疹です(写真3)。
ダイビングツアー中の食べ物や疲れが誘因となることもあります。
ー物理性蕁麻疹はどんなときに見られますか?
山見 物理性蕁麻疹には、機械性蕁麻疹、寒冷蕁麻疹、温熱蕁麻疹があります。
機械性蕁麻疹は、皮膚の機械的刺激によるもので、ダイビングでは、BC、ウエイトベルト、ウエットスーツやドライスーツなどによる圧迫や摩擦によって生じます。
寒冷蕁麻疹は、寒風や冷水に接したときに見られます。温熱蕁麻疹は、温熱が加わった部分に生じます。日光に当たったときに発生する日光蕁麻疹も温熱蕁麻疹の一種とされています。
温熱が加わった箇所以外に広がる蕁麻疹は、コリン性蕁麻疹と呼ばれています。
ー減圧症性蕁麻疹にはどのような特徴がありますか?
山見 減圧症の典型的な皮膚症状である大理石斑は数時間のうちに形が大きく変わるようなことはありません(半固定的)が、減圧症性蕁麻疹は刻々と赤みの程度や場所が変わり、かゆみが強く少し盛り上がっています。
ー予防方法は?
山見 物理性蕁麻疹の予防は、原因をはっきりさせることから始めます。 寒冷蕁麻疹の誘発試験では、皮膚に冷水や氷を、温熱蕁麻疹では43度くらいの温熱を当てて調べます。接触部に蕁麻疹が現れたら陽性と判断します。
減圧症性蕁麻疹が疑われるときは高気圧酸素治療を行います。高気圧酸素治療によってすっかり消失したら減圧症性蕁麻疹と診断します。
コラムニスト
山見 信夫(やまみ・のぶお)先生
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい。
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http://www.divingmedicine.jp/
*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)