タンクの空気から異臭!吐き気がこみ上げる
ダイビング歴2年のTさん(40本/女性)
異臭がする空気の入ったタンクでも「だいじょうぶ!」と言われて潜ったものの、吐き気に襲われ、急浮上しようとした体験をご紹介します。
以下はダイバー本人の体験談です。
2年前、友人の勧めでCカードを取得した私は、これまで伊豆やリゾートで潜ってきました。ふだんから耳が抜けにくいことが悩みでしたが、とくに大きなトラブルもなく、経験本数はまもなく40本目。そしてこれは8月頭に、友人と参加したショップツアーで、東伊豆のとあるビーチポイントを潜ったときの体験です。
前回、伊豆で潜ったのは2月。今回は天気も快晴の真夏日で、半年ぶりの伊豆ダイビングにテンションが上がります。メンバーは私と友人2人、ガイドはOW講習からお世話になっているインストラクターで、和やかな雰囲気。ただ、私は前日3時間しか眠れず、耳抜きが心配でした。インストラクターに相談すると「水中はなだらかな遠浅で、潜降ロープもあるからゆっくり行こう」とのこと。ホッとしながら1本目へ向かいます。
空気が臭い!!不安を抱えたままEN
スロープになっているEN口は波も小さく、私たちはスノーケルをくわえて海に入ります。そのまま潜降地点まで水面移動をし、レギュレーターにくわえ直して潜降を開始しようとした時です。友人の1人がレギュレーターを外し、「空気が臭い!!」と叫びました。私もひと息吸った空気に不気味な異臭を感じました。それは全員同じだったよう。「これヤバイ空気じゃない?」とたんに私たちの胸中は不安でいっぱいになりました。しかしインストラクターは「ちょっと臭いますが、だいじょうぶ! もしどうしても我慢できなくなったら言ってください」と言うので、潜ってみることにしました。
とはいえ、呼吸するたびに腐ったゴムのような異臭空気が喉元を通り過ぎ、吐きそうになります。とりあえず我慢しながら、私は潜降ロープを握りしめてBCの空気を抜き、意識を耳抜きに集中します。ところが、この日もなかなか抜けません。途中からインストラクターにサポートしてもらいながら、なんとか潜降できたのですが、焦りや緊張から私の呼吸はすでに乱れていました。しかも、相変わらずの異臭空気が、さらなる吐き気を誘います。「この臭い、一酸化炭素!? 吸って平気なの?」問題ないと言われたものの、ネガティブな妄想が膨らみます。
異臭に加えてうねりがあおる。吐き気はもう限界
透明度は5m前後で、水中はうねりもありました。空気の異臭に加えて、身体を左右に振るうねりが、余計に吐き気をあおります。EN後10分、水深5〜10mの浅瀬を進みながらも、私はすでに何度も食道が逆流する気持ち悪さを感じており、ダイビングを楽しむどころではなくなっていました。 「どうしよう、ほんとうに気持ち悪い」水深計を見ながら、「深くなるほど汚染空気が圧縮されてたくさん身体に入ってくる……怖い!」悪い妄想がどんどん恐怖心をかき立て、しまいには頭まで痛くなってきました。「ひどくなる吐き気に、頭痛まで……。これってほんとうに一酸化炭素中毒かも」そんな極論が脳裏をよぎった瞬間、私はインストラクターのもとにダッシュしていました。「もう無理!」と伝えたくて、自分の胸をたたきながら、必死で首を横に振ります。インストラクターは「OK。岸に戻ろう」と合図をくれますが、私はすでにパニック寸前で、一刻も早くレギュレーターを外したい衝動に駆られていました。
あわや急浮上!水面に出たとたん思い切り嘔吐
「水中を泳いで戻るのなんてもう無理だってば!」私は首を振り続けながら、ものすごい勢いで水面に向かって泳ぎ始めていました。この時、これ以上タンクの空気を吸いたくなかった私は、息を止めていたような気もします。しかしさすがにインストラクターがすぐに私をつかまえてくれ、いっしょに浮上してくれました。
浮上中、水深が浅くなるにつれて、どんどん食道から逆流するものを感じます。水深は7mだったので、すぐに水面に到着できたものの、顔を出した瞬間にレギュレーターを外し、思いっ切り吐いてしまいました。インストラクターが私のBCに給気し、姿勢と呼吸を安定させてくれました。「ここでちょっと休んでて。2人を連れて戻ってくるから」と言って、インストラクターは再び水中へ。その後、友人2人も無事に浮上し、岸まで水面移動で戻ったのでした。
私ほどではないにしても、全員が気分の悪さを感じていて、25分のダイビングですでにぐったり。EX後、満タンのタンクをすべて確認してみると、どのタンクからも同じ異臭がしていました。この日は週末で、大勢のダイバーでにぎわっていましたが、皆このタンクで潜って平気なのかと、不思議で仕方ありませんでした。私たちは2本目はキャンセル。インストラクターが以前ここを潜った際も異臭タンクだったそうですが、おそらくコンプレッサー臭で危険な空気ではないと思うとのこと。確かに、EN前の空気チェックを怠った私たちにも原因はあります。しかし危険な空気ではないにしろ、あんな異臭のする空気を充填するなんて……。もう二度と行きたくないと思わざるをえません。
PADIコースディレクターからのコメント
異臭タンクは即交換
セッティングの基本を怠らない
最大の原因は、インストラクターも含め、器材セッティング時に、エアの臭いを確認しなかったことです。臭うことによる不安から来る息苦しさなども、パニックを起こした要因です。最近国内では、異臭タンクはあまり耳にしませんが、器材のセッティングでは作動の状態確認だけではなく、エアの臭いチェックをするという基本も怠らないでください。
体験者のかたは、一酸化炭素の可能性を考えていますが、一酸化炭素はほぼ無味無臭。つまり、タンクのエアが臭う場合は、コンプレッサーの不調などから、オイルが混入しているなどの原因がほとんどです。
器材をセットした際に臭いがすると思ったら、タンクを交換してください。ダイビング中に「臭い」と気づいたらエグジットし、タンクを交換するべきです。また、タンクをレンタルしているサービスにも状況を伝えましょう。まずは、器材セッティングの際のエアの臭いのチェックをすること。それだけでこのトラブルはほぼ防げます。
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アドバイザー
我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。
>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/