初ボートで初ドリフト 底なしの外洋に身がすくむ 安全なダイビングのために Vol.28

DIVERの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。 <ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。 実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。

初ボートで初ドリフト 底なしの外洋に身がすくむ

ダイビング歴6年のNさん(120本/男性)

ビギナーの頃、初ボートダイビングでいきなり外洋のドリフトポイントを潜り、エントリー直後にパニック浮上をしかけた体験をご紹介します。

以下はダイバー本人の体験談です。

今でこそ経験本数は100本を超え、不安やトラブルもなく潜れる僕ですが、Сカード取得後わずか半年、まだ10本目というビギナー時代に体験した出来事です。

今から5年前、僕は友人3人といっしょにニューカレドニアに行きました。僕以外は全員ベテランダイバーで、国内外とも頻繁に潜っている人たち。いっぽう僕はСカード取り立ての超初心者でした。しかしニューカレドニアの写真を見て感動した僕は、足手まといになるのを覚悟で、連れて行ってもらいました。

ボートも未経験のまま1本目でいきなり上級外洋ポイントへ

ニューカレドニアに来るのは全員が初めてでしたが、アグレッシブな友人たちは上級ポイントばかりをリクエストしていました。現地ガイドも彼らを信用し、初日の1本目から、狙うはブラックマンタ。有名な「パス ドゥ ブーラリ アウト」で潜ることになりました。しかしそこは外洋で、ドリフトスタイルで潜るとのこと。僕はOWダイバーで、ボートダイビングもしたことがありません。おまけに水深は20mオーバー、その時はドリフトダイビングがどんなものか、見当さえつきませんでした。それでも、「みんな付いてるからだいじょうぶ!」という友人たち。今思えば、僕はマンタを見たこともなく、「ブラックマンタに会えるかも!?」という期待に高揚して、自分がいかに無謀なことをしようとしているのか、この時はまったく認識していなかったように思います。

ブリーフィングでは、ポイントの詳細やドリフトダイビングの注意事項などをガイドが丁寧に説明してくれました。初めて聞くことばかりで混乱しましたが、「みんなの真似をして付いていけばいいだろう」と軽く考えていました。

友人がボートエントリーの仕方を教えてくれます。少し流れがあるようなので、速めに潜降するようにとアドバイスを受けます。僕は言われたとおりにBCの空気を抜き、ジャイアントストライドでエントリーしました。身体が沈むのを感じながら、取り巻く泡が消えたところで、ふと下を見た瞬間、背筋が凍りつきました。「えっ!? 底がない!!」

講習を含めたこれまでは、ビーチで海底の見えるポイントしか潜っていません。それがいきなり、海底も見えない、目印もない、見渡す限りの真っ青の世界に落とされたのです。

底なしの外洋で1人どんどん流され呼吸も身体も制御不能

周りでは友人たちが優雅に潜降していき、その姿はどんどん遠ざかるばかり。僕も沈んでいるようですが、どうやら1人だけ流されているようにも感じます。「まずい! どんどん離れていく……」僕1人だけが引き離され、底なしの海中へと吸い込まれていくような、恐怖のどん底に落ちていく感覚。呼吸はみるみる乱れ、速い呼吸を繰り返していました。

「息苦しくなったら深呼吸を!」ふと、僕の脳裏に教科書で読んだフレーズがよぎり、意識的に呼吸を遅くしようと試みますが、まったくコントロールがききません。底のない恐怖、1人だけ流される不安、操縦不能になった呼吸と身体。息苦しさはどんどん恐怖心に拍車をかけ、どうしていいかわからず思考回路も混乱していき、ついにレギュレータ越しに「苦しい〜〜!」と叫びながら、その場から水面へとダッシュしていました。

水面に向かってダッシュ!スタッフの羽交い絞めに、全身で抵抗を続ける

恐怖も息苦しさも我慢できなくなった僕は、あっという間にパニックダイバーに。水面までまだ距離があるのに、レギュレータを外そうとしてセカンドステージに手をかけていました。すると、アシスタントで付き添っていた現地スタッフが僕の後ろに回り込み、羽交い締めにしたかと思えば、後ろから僕のカンドステージを押さえ込んできました。

僕はそれを振り払わんばかりに暴れ回りました。「離せ! こんな緊急事態に拘束するなんて信じられない!」と思っていました。口を押さえつけられ、身体の自由も奪われたまま僕は全身で抵抗し続けました。

しかし、ふと気がつくと、目の前にガイドと友人たちがいます。ガイドは落ち着いた様子で「ゆっくり息を吐いて〜吸って〜」という合図を何度も繰り返し、友人も見守ってくれています。その様子を見て、僕はフッと我に返ることができたのです。そのまま深呼吸を繰り返すうちに落ち着きを取り戻した僕は、ガイドと友人たちの手厚いサポートを受けながら、無事に1本を終えたのでした。

あんなパニック状態でエントリーしたにもかかわらず、「深呼吸を続けて」というアドバイスや、周りのサポートのおかげで潜り切れたことに自分でも驚き、みんなには感謝しています。もしあのまま浮上していたら、また潜ることも怖くてできなかったはず。僕はこの体験から、より深い知識や危機回避スキルを手当たり次第に勉強し、1年くらいかけて恐怖を克服しました。今では不安やストレスもなくダイビングを楽しんでいます。

PADIコースディレクターからのコメント

不安をパニックへ発展させない
ブリーフィングで予防できる

明らかに、経験不足から来る不安でパニックになった状態です。エントリー前から持っていた不安、そして、未経験のボトムのない場所での潜降。上級ポイントと言われたことで余計に不安が増したのでしょう。

この場合、自分自身で落ち着くことしか方法はないでしょう。恐怖や不安でパニックになっているのですから、気持ちを落ち着けゆっくり呼吸すること。現地ガイドが対応してくれた方法しかないかもしれません。

ブリーフィングの際、初めてのボートで初めてのドリフトであることをきちんと伝え、ポイントの状況や地形、注意点などをよく聞くことが必要です。自分自身できちんと理解した上で落ち着いて潜りましょう。可能ならドリフトダイバーSPコースなどを受講してから出かけるべきでした。このコースでは、ドリフトダイブでのエントリーの仕方、潜降、グループとはぐれないためにはどうしたらいいのか、などを比較的ハードではないドリフトポイントで経験することができます。

トラブル脱出体験談募集中! >>edit@diver-web.jp

内容を簡単に記入のうえ、本誌「危機からの脱出係」まで。ハガキ、封書、FAXでも応募可。採用のかたはこちらから連絡いたします。

 

アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん

静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/

AUTHOR

Koga

DIVER ONLINE 編集部

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