シビレエイが体当たり!電流が走り、エア切れ寸前に 安全なダイビングのために Vol.33

DIVERの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。 <ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。 実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。

シビレエイが体当たり ! 電流が走り、エア切れ寸前に

ダイビング歴2年のIさん(60本/男性)

Cカード講習でシビレエイに攻撃され、右足に電気が駆け抜けました。誰にも異変に気づかれず、最後はエア切れ寸前になった体験をご紹介します。

僕は2年前の初夏、会社の同僚2人といっしょに伊豆でCカードを取得しました。現在はマスタースクーバダイバーまでステップアップして、ダイビングを楽しんでいます。これはオープンウォーター講習中の出来事です。

講習当日は初めての海で緊張していましたが、1日目はスキルも難なくクリアでき、迎えた2日目の2本目。場所は東伊豆のとあるビーチポイントで、透明度があまりよくなく、4ダイブ目とはいえまだまだ緊張感が拭えないままENしました。

潜降後はインストラクターについて浅瀬のゴロタをゆっくりと進みます。少し泳ぐと沖には砂地が広がっており、スキルを練習しながらも講習中はたくさんの生き物たちとも出会えました。ゴロタから砂地に出て、水深は14m辺りまで行った頃だったでしょうか。インストラクターが何かを見つけたようで、みんなを呼びます。僕たちも砂地に着底して、「シビレエイ」と書かれたスレートを見ながら、インストラクターが指さす場所に目を凝らすと、そこには砂に隠れるようにたたずんでいる、丸くて平べったいエイらしき姿が見えました。大きさはだいたい30〜40㎝くらいです。この生き物は胸ビレや頭部の発電器官から電気を発することなど、インストラクターがスレートで丁寧に説明してくれました。「へぇ〜! そうなんだ!」と、僕たちは興味津々でしばらく観察を続けました。

電気を発すると聞いたシビレエイがまさかの体当たり!

数分して「そろそろ行こう」とインストラクターが泳ぎ出します。僕たち3人も、着底姿勢から泳ぎ出そうとしたのですが、まだダイバー認定前。おまけにドライスーツだったので、水中バランスにも苦戦してうまく浮かび上がれず、3人ともシビレエイの真上1m弱を通過するのが精一杯です。そうして先に同僚2人が通過し、最後に僕がシビレエイの真上を通過しようとした、その時です。それまで砂地に身を潜めてじっとしていたシビレエイが、突然ひらりと身を翻したかと思ったら、真っ白なお腹を向けて僕に思いっ切り体当たりしてきたのです!「イタイッ!!」一瞬の出来事でしたが、僕は右膝にシビレエイのアタックを受けたようで、右足をパチンとハリセンでたたかれたような衝撃と痛みが駆け抜けました。僕は電気ショックを受けてしまったのだと思いますが、感じたのは痛みだけで、シビレはありませんでした。しかし、こんなに分厚いドライスーツの上からでも電流が伝わり痛みが走るなんて。そして、まだ慣れない海の中で生き物に攻撃されたことにとても驚きました。シビレエイはすでに姿を消していましたが、残された僕はすっかり混乱状態。気づけば呼吸は激しく乱れ、心拍数もみるみる急上昇していきました。

電気ショックで痛みが駆け抜け、1人置いてきぼりに

先を行くインストラクターや同僚2人は僕のそんな事態に気づくはずもなく、1人置いてきぼりに。視界も悪く、水深も深いので、その薄暗さも恐怖心をあおります。後から聞いた話では腹部のほうが、電圧が高いそう。その時は、とにかく右膝の痛みが僕をどんどんパニックへと陥れていきました。

そんな中、僕はふと「トラブルが発生した場合はとにかく冷静になること」というフレーズを思い出しました。そこで、「みんなに追いつくより、まずは落ち着こう」とその場で深呼吸を繰り返し、ずいぶん荒くなってしまった呼吸を整えることに集中しました。足の痛みは1分くらいで徐々に治まってきて、深呼吸のおかげで呼吸もだいぶ落ち着きを取り戻してきました。それから、少し離れてしまったみんなの所まで無事に泳ぎついたのでした。

そのまま潜り続けエア切れ寸前!EX時の残圧はゼロ

合流した頃には呼吸も落ち着き、足の痛みもほとんどなくなっていたので、インストラクターには何も知らせずに、そのまま何事もなかったかのようにダイビングを続けます。そうして今度はアオウミウシに出会い、初めて見るその姿に夢中になっていた時、インストラクターが残圧を聞いてきました。そこで初めて自分の残圧を確認してみると、なんと、すでに20を切っているではありませんか!

講習中ここまで少なくなったことはなかったので、おそらくシビレエイのアタックで呼吸が荒くなり、エアを大量に消費してしまったに違いありません。エア切れ寸前で動揺を隠せない僕に、インストラクターがオクトパスを渡してくれ、エアをもらいながらEX口へ向かいました。そのまま水深2mのゴロタまで戻ったところで自分のレギュレーターにくわえ直し、無事にEXすることができました。

EX時の残圧はゼロ。インストラクターが聞いてくれなかったら、もっと大変なトラブルになっていたかもしれません。右膝は痛みや後遺症も残らず、むしろ右膝の動きが快調だったのは不思議です。そして、一人でもトラブルに対処できた経験は、大きな自信になりました。

PADIコースディレクターからのコメント

シビレエイに毒はなし。驚きをパニックに発展させない

トラブルがあったら落ち着いて対応すること。これは正しい判断です。シビレエイは昼間、砂地に潜んでいることが多い生き物です。それにアタックされるということは、誰かが踏んだか蹴ったかのどちらかがあったのでしょう。驚かせたのが原因です。シビレエイの発電量は30〜70V程度です。毒があるわけではなく、電気ショックだけですから後遺症もありません。

電気ショックよりも、パニックに陥ることのほうが問題です。冷静に落ち着いてタンク圧を確認してください。自分があまり快適ではないと感じたら、ガイドへ状況を伝え、ダイビングを終了するのも1つの方法です。 砂地には、ハチなどトゲに毒を持つ生き物たちも潜んでいることがあります。着底したり、水底近くを泳いだりするときは、そのような生物たちを驚かさないことがベスト。攻撃性の高い生き物たちはあまりいませんから、手をついたり足をついたりするときはとくに注意するようにしてください。

トラブル脱出体験談募集中! >>edit@diver-web.jp

内容を簡単に記入のうえ、本誌「危機からの脱出係」まで。ハガキ、封書、FAXでも応募可。採用のかたはこちらから連絡いたします。

 

アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん

静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/

AUTHOR

Koga

DIVER ONLINE 編集部

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