撮影に夢中になりすぎた!セルフダイビングでロスト 安全なダイビングのために Vol.21

DIVERの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。 <ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。 実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。

撮影に夢中になりすぎた!セルフダイビングでロスト

ダイビング歴10か月のIさん(38本/女性)

伊豆のビーチポイントでマクロ撮影に夢中になっていたところ、1人置いてきぼりに。気づくとDECOまで出ていた体験をご紹介します。

以下はダイバー本人の体験談です。
昨年の6月、会社の先輩YさんのススメでCカードを取得した私は、それから毎月のようにYさんに連れられて伊豆に通ううち、まもなく40本を迎えます。Yさんはきれいな水中写真を撮るベテランダイバーで、いつも一眼レフカメラを持って海に入ります。私も彼の影響で水中写真の魅力に取りつかれ、初心者ながらもハイスペックなコンデジとストロボを購入し、毎回練習しながら潜っています。

そしてこれは今年1月、東伊豆のとあるビーチポイントを潜った時の出来事です。Yさんと私、Yさんの同僚Kさんの3人で潜りました。Yさんはダイブマスターで、この日のポイントも何度か潜ったことがあったので、セルフダイビングをすることに。水中は少しうねりがあり、透明度は7m前後。Yさんは冬場の時期にしては少し透視度に劣ると言っていましたが、カエルアンコウなどのマクロ生物たちを堪能し、1本目を無事に潜り終えました。Kさんも、カメラ派ダイバーで、最新のミラーレス一眼を買ったばかり。そこで、2本目は写真撮影をメインに潜ろうということになり、同じポイントにENしました。

独占状態の砂地で撮影に夢中になる3人

1本目と同じルートで、手前に広がるゴロタを抜け、沖の砂地を目指します。平日だったためダイバーも少なく、他のグループとも時間差でENしたので「マクロフィールド独占だね!」とスレートに書くYさん。私はまだまだ写真の腕が未熟なので腰を据えて練習するつもりでした。

砂地に到着した私たちはさっそく被写体を探し始めます。Yさんは私が撮りやすい生物を探してウロウロした後、岩縁に顔を出すコケギンポを見つけてくれました。私はその愛くるしい顔をカメラに収めようとさっそくカメラを構え、ストロボの調整などを済ませてバシバシ撮影。10分程度経過して、ふと後ろを振り返ると、砂地に這いつくばりながら何かを狙うYさんとKさんが見えます。「まだみんな撮影モードだな」ひと安心した私は、ふたたびコケギンポの口を開ける瞬間を待ちわびながら、カメラに集中しました。

しばらくして、違う被写体も撮ってみたくなりYさんに近づいてみると、極小米粒サイズの色鮮やかなウミウシを撮っている様子。「このサイズは私には無理だ」そう思った私は、他の生物を探し、ふと数メートル先に共生するハゼとテッポウエビを見つけて再びカメラに集中し始めました。しかし思うような瞬間を収めることができず、10分、20分とその場にいたかと思います。水深は16m。深くなければ減圧症にもならないだろうと、ダイビングコンピュータも気にしていませんでした。

2人がいない!グルグルさまよい、マスクも水没

どのくらいの時間がたったか、はっと我に返って周りを見渡してみると、近くにいたはずのYさんたちの姿がありません。「あれ、いない!?」1人取り残された事実で私は一気に心拍数が急上昇し、激しい動揺に襲われます。ロストしたのは初めてで、1本目と同じ場所を潜ったにもかかわらず、方角など一切わかりません。恐怖心でじっとしていられずに砂地をさまよい始め、ものすごい勢いで360度見回したり、反り返るほど上を見上げたり。そのせいかマスクには大量の水が浸入してきました。うっかり鼻から水を飲み、ジタバタしながらむせ返る私。「Yさん近くにいたはずなのに、どこ行ったの? 怖いよ!」

初めて見るDECO表示 残圧もわずか20に

ひとまず落ち着こうと思い、私はその場にひざ立ちになりマスクをクリアします。しかし、自分で砂を巻き上げたのか視界もさらに悪く感じられ、そのうち寒さも限界に達してきました。そこでふとコンピュータに目をやると、潜水時間はまもなく60分に。そこには初めて見るDECOの文字が点滅しています。「なにコレ?」私は訳がわからないまま、まずはYさんを探そうとどちらが岸かもわからないまま再び砂地を進みました。ここで初めて残圧を確認すると、残りはなんと20。「エアもなくなる!」と思った瞬間、後ろからフィンをぐっと引っ張る感触を感じ、振り返るとそこにはYさんがいました。涙目になりながら彼にしがみつき、岸へと戻ったのでした。

EX後、私は初めてDECOの意味を知り、減圧停止をせずに上がってきたことに気づきましたが、後の祭り。純酸素を吸って安静にしたところ、幸い症状は出ませんでした。Yさんたちはしばらく私の周りにいたそうですが、ふと中層でアオウミガメの姿を見つけ、ダッシュで追いかけて行ったそう。私を呼ぼうとベルを思い切り鳴らしものの、フードをしていた私はまったく聞こえず。カメを追いかけた後、元の位置に戻ると私の姿がなく、Yさんは浮上して泡を探しながら助けに来てくれたそうです。ロストに気づいた時点ですぐに浮上していればよかったかもしれませんが、ブリーフィングもなく潜ったのと、あまりのパニックで「水中を探し回る」という最悪の選択をしてしまった私でした。

PADIコースディレクターからのコメント

全員がカメラを持ったダイビング 潜水前にルールの確認&徹底

撮影に夢中で周りが見えなくなり、はぐれてしまったケースです。今回の場合は、IさんにもYさんにも問題があります。動きの少ない被写体を狙うダイバーと、動きのあるウミガメを狙うダイバーが、それぞれの撮影に夢中になるあまり、タンク残圧もコンピュータの表示もチェックせずに潜り続けていた結果です。

はぐれた場合の対処法ですが、はぐれたことがわかった時点で、コンピュータの表示と水面を確認して浮上。透明度の悪い環境では、水中を探すことなく浮上しましょう。はぐれたとわかっても、慌てる必要はありません。お互い浮上することを事前に決めておけばいいのです。

セルフダイビングで、全員が写真撮影をするときは、あらためてEN前に打ち合わせしておくことが大切です。移動するときは全員で移動。シャッターを何度か押したら、周りと水深、タンク圧を確認するなど、ルールを徹底しましょう。目印になるものを決めておき、そこから離れないと決めておくのも役立ちます。

トラブル脱出体験談募集中! >>edit@diver-web.jp

内容を簡単に記入のうえ、本誌「危機からの脱出係」まで。ハガキ、封書、FAXでも応募可。採用のかたはこちらから連絡いたします。

 

 

アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん

静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/

AUTHOR

Koga

DIVER ONLINE 編集部

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