初めての深さとDECO表示 パニック寸前の洞窟ダイビング
宮古島で洞窟ダイビングに出かけたIさん(40本/男性)
初めての深さに戸惑い、さらにDECO表示まで出て、深度変化の激しい中でパニックになった体験を紹介します。
以下はダイバー本人の体験談です。
ダイバーになって2年目の今年の夏、僕は友人Yさんと、初めて宮古島を訪れました。伊豆でOW講習を受けた僕は、リゾート地で潜るのは初めて。ダイナミックな地形がおもしろいと聞いていたので、とても楽しみにしていました。
この体験をしたのは初日の1本目。その日は「通り池」のリクエストがあるとのことで、西の下地島へと向かいました。いっしょに潜るのは僕とYさん、そして本格的なカメラを使いこなす上級者3人とガイドの計6人です。船上で紹介を受けた僕は、「こんな上級者と潜るのは初めてだけど、だいじょうぶかな……」とまだまだ初心者レベルなので、緊張が高まります。
DECOの意味がわらかず ノンストップで浮上
ポイントに到着し、ガイドがブリーフィングを始めますが、ベテランの人たちは常連のようで、だいぶ簡略化された説明です。「残圧が100になったら教えてください。洞窟の中は視界が悪くて、ユラユラして気分が悪くなることもあります。2人(僕とYさん)は初めてなので、僕のすぐ近くにいてください」の注意だけ。ポイントの情報もまったく知らなかった僕は不安になりながらも、とにかくガイドから離れないようにしようとYさんと話し、ENしました。
潜降すると岩壁沿いに深場へと進み、水深20m辺りに着くと大きな穴が見えました。そこが洞窟の入り口のようで、ガイドを先頭に中に入ります。穴はとても大きく、水深も深い様子。僕はガイドのフィンを目安に進むつもりが、オーバーウエイトだったために身体が下へと引っ張られます。ガイドは暗闇の中で生物を探し、3人の上級者たちも写真を撮るのに夢中のようで、洞窟の中で結構な時間を過ごしました。僕はみんなより沈みぎみで、ふとコンピュータを見ると、水深35m! 僕は30mを超えたことがなかったので、全身がこわばり、心拍数も一気に上昇します。自分のコンピュータとはいえ、その時は減圧不要限界時間の見方も知らなかった僕。とりあえず、水深をみんなに合わせようと慌てて深度を上げました。
ひととおりの生物紹介を終え、先に進むガイドに付いていくと、天井が明るくなり、ガイドが浮上サインを出してきます。「え、違う所から浮上するの?」視界はモヤモヤしていて、少し濁ったような色にも見えます。このポイントの醍醐味はこの色の変化と地形だというのは後から知った話。この時は堪能する余裕もなく、浮上サインを出された僕は、てっきりそのままEXに向かうのだと思い、ガイドにぴったりくっついて浮上していきました。途中、安全停止をするだろうとコンピュータを見ると、そこには「DECO」の文字が……。「まずい! これは出したらいけないマーク?」DECOの知識も曖昧でしたが、減圧症の危険が迫っていることだけは感じます。しかし、ガイドは安全停止もせずに水面まで上がっていったので、僕もそのまま浮上しました。
EXでなく再潜降!?コンピュータが動かない
水面に出るとそこは岩壁に囲まれ、「通り池」の1つ目の池だとガイドが説明しますが、僕はただただ「どこからEXするの?」とキョロキョロするばかり。しかし説明を終えると「それではまた潜降して、来た道を戻りましょう」と、ガイドはさっさと水面下に消えていきました。「また潜降?」他のみんなも次々と消えていき、おそるおそる僕も続きます。
しかしコンピュータを見ると、今度は画面全体が点滅するだけで、まったく機能していません。「なんだこれ! もしかして、アウト?」得体の知れない恐怖に襲われ、近くにいたYさんにダイコンを見せるのですが、Yさんも「ん?」な顔で見るばかり。僕は緊急事態を知らせるべく、ずいぶん下にいたガイドの所に駆け寄ります。
緊急事態が伝わらない!?水面へとまっしぐら
しかしコンピュータを見せても、ガイドは「OK。行こう!」という合図です。それを見た瞬間、「OKな訳ないだろ!」と、ガイドを信用することができず、「減圧症になるくらいなら1人で浮上したほうがマシ」と思った僕は、完全に頭の中が真っ白になり、浮上スピードなんて気にする余裕もなく、必死のフィンキックで水面へ向かいました。しかし、目の前で急浮上し始めた僕を見て、さすがにガイドも僕を引き止め、落ち着かせながら「来た道を戻って浮上すればOK」とスレートに書いてきます。僕は腕をつかまれながら真っ暗な洞窟を戻り、安全停止もガイドに付き添われて5分より長めに行い、なんとかEXしたのでした。
EX後は念のためと、純酸素を吸って休憩しました。しかしガイドは「急浮上はダメだよ。しかも、僕より深い所にいたからDECO出たんだね。DECOが出たからコンピュータが動かなくなっていただけだよ」と、僕の責任といわんばかりの口調です。もちろん僕にも非はあるとは思いますが、浮上してからまた潜降するなんて知らなかったし、ルートの説明など詳しくしてくれていたら、もう少し安心できたはず。けっきょくその日は、2本目もリタイアすることとなったのでした。
PADIコースディレクターからのコメント
ブリーフィング時の遠慮は禁物 DECOが出ても、慌てずゆっくり浮上
トラブルの原因は、ブリーフィングが少なすぎたこと。そして自分自身でわからないことがあるのに、質問もせずに理解不足のまま潜ってしまったことです。またダイビングコンピュータに関しての知識が少なすぎたことも一因です。DECO(減圧停止)の表示が出るのは、その場ですぐにどうにかなってしまうことを意味しているのではありません。出ている表示に注意してゆっくり浮上してください。途中、浮上停止の指示が出たらそれに従い、慌てず落ち着いて、可能な限りゆっくり浮上することを心がけてください。
また自分で深いと思ったのなら、BCのエアをコントロールして深度を少しずつ上げていき、皆と同じ水深にいられるようにしましょう。 ブリーフィング時は、不安やわからない点があったら、積極的に聞いてください。ゲストに慣れた人が多い場合、ガイドもブリーフィングを簡単に済ませてしまうことがありますが、遠慮せずに質問し、情報を把握しましょう。
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アドバイザー
我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。
>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/