ガイドの英語がわからない 気づけば沈船の水深40m
普段は伊豆を潜っているHさん(220本/男性)
4年前にグアムに潜りに行った時のこと。ガイドに誘われるままついていくと、気づけば水深40mを越えてしまった体験をご紹介します。
以下はダイバー本人の体験談です。
ダイビング歴は6年、普段は伊豆半島をメインに潜っています。4年前、僕がまだ80本程度の経験だった頃、いっしょにダイビングを始めた友人Кさんと2人でグアムに潜りに行ったときのことです。海外で潜るのはこれが初めてだった僕たち。お世話になるダイビングサービスには日本人のスタッフが何人かいたものの、僕たちのガイドは現地の女性スタッフでした。片言の日本語しか話せない彼女は、ジェスチャーを交えて英語で手順を指示してきますが、意思の疎通がままなりません。僕たちは「大丈夫かな?」と落ち着かない気分で器材をセッティングし、船でポイントへと出発しました。
ブリーフィングは英語 わからないまま巨大な沈船へ
グアムといえば地形ポイントの「ブルーホール」が有名で、僕たちもリクエストを出していました。しかし、その日は風がとても強く、外洋は荒れ模様。外海に位置する「ブルーホール」は行けないとのことで、湾内のポイントで潜ることになりました。
そうして迎えた1本目は、沈船ポイント「アメリカンタンカー」です。ガイドは英語でブリーフィングをするのですが、僕たちには正直あまりよくわかりません。その日、僕たち2人といっしょに潜る2人の日本人女性と顔を見合わせて苦笑い。とりあえず器材を背負い、ENしました。
水中に入ると、透明度の悪さにビックリ! 通常はブリーフィングで目安の透明度などの情報を教えてもらえるのですが、この時はあまり状況を把握しないまま海に入った僕たち。もちろん海底も見えず、この下に沈船が眠っているのかと思うとドキドキする反面、あまりの視界の悪さに不安も増してきました。
ひとまずブイに集合するも、僕を含めみんなの顔には明らかに不安な気持ちがにじみ出ています。5人でロープ潜降し、水深15mくらいの船のトップに到着した僕たちは、ガイドの後を沈船に沿って泳いでいきました。
思った以上に大きな船のようですが、透明度は5m前後。4人ともガイドの真後ろに密集しながら進みます。ガイドは操縦席らしき場所や、船内を通り抜けたりしながら楽しそうに進みますが、僕は内心不安でいっぱい。透明度の悪さからか沈船の姿も不気味に感じられ、さらなる恐怖心が募ります。
まさかの水深40m 突然胸が苦しくなる
15分くらい泳いだ頃、ガイドが残圧を聞いてきました。全員まだ100以上あることを確認すると「私についてきて!」という合図を出し、船の側面沿いにどんどん深場へと向かいます。「ここから深場に行くの?」僕は疑問を抱きながらも「何かおもしろい生き物でもいるのかな?」と後を追います。深くいくにつれ光はますます届かず、視界はさらに暗く狭く感じ、さらにBCに給気もしていないのに強烈に胸回りが苦しい感覚になってきました。「なんか変!? く、くるしい……」僕は息苦しさからBCを脱いでしまいたい衝動にかられていました。「なんなんだこれ……BC脱ぎたい!」深く落ちていくにつれて浮力が失われ、身体はどんどん沈んでいきます。そして砂地らしき海底が見えたところでダイコンを見てみると、なんとそこはすでに水深40m! 僕は水深30mを越えたのはこの時が初めてでした。そんなシリアスな状況や胸の息苦しさとは裏腹に、僕には危機感はなく、砂地に足がついたことで安心感さえ覚えながら、BCの腹部のベルトを外そうとしていました。あんな体験は初めてでしたが、窒素酔いの一種だったのでしょう。ガイドはといえば何かを探しているようでしたが、僕たちを確認しようと振り返った途端、ビックリした顔で近づいてきて僕と友人Кさんの腕をつかみ、急いで浮上を始めました。
女性2人が消えた!?ガイドが慌てて捜索
僕は何が起こったのかわからず、ただただガイドに身を委ねて浮上していきます。そしてふと気づくと、いっしょにいるはずの女性2人が見当たりません。ガイドはそれを知って、慌てて僕たちを連れて浮上したのでしょう。いつのまにか、僕の不思議な息苦しさは消えていて、3人で周囲を見回しながら2人の姿を探しました。すると水深20mあたりだったでしょうか、人影が見えました。2人は沈船の縁につかまって待っていました。ガイドも僕たちも、そして彼女たちも全員無事でホッとしたところですぐにブイへと戻り、安全停止をしてEXしたのでした。
恐怖感から呼吸も乱れたのか、EX後の僕の残圧は10。女性2人はあまりの恐怖であれ以上進むことができなかったようです。僕も窒素酔いのままでいたらどうなっていたか。ガイドは2人をロストしたことに気を取られて僕の異常に気づいておらず、EXまで僕はBCベルトを外したままでした。結局ガイドが水深40mに行って何がしたかったのかはわからず仕舞い。その後もガイドへの不信感が抜けないまま2日間を何とか潜ったのですが、今思えば日本人スタッフに相談してみてもよかったかな、と思います。
PADIコースディレクターからのコメント
言葉の問題で尻込みは禁物 嫌なときには、嫌だという意思表示も
ブリーフィングで内容がわからないなら、そのままにしないこと。言葉の問題があるにしろ、この場合は日本人スタッフもいたようですから、確認をしようと思えばできたはずです。また、深度の確認は自分自身でこまめにすることを心がけてください。ガイドが深い深度へ行こうと言っても、それが不安で嫌なら「嫌だ」と意思表示をすることも大切です。水深20m付近で待っていた女性2人組の取った方法が100%ではありませんが、「不安がある」という意思表示ですから、正解と言えるでしょう。本来ならば、その場で伝わっていればベストでした。
胸回りの苦しさは、ご自身でわかっているとおり、窒素の影響でしょう。深場で異常な感覚などがある場合、窒素の影響の可能性が高いので、即座にゆっくり浮上をすることを考えてください。その時には慌てずガイドに合図を出し、呼吸を落ち着けてゆっくり浮上すること。ただそれだけで、かなり不安感も異常な感覚もなくなってくるはずです。
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アドバイザー
我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。
>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/