海の中からでは見えない景色を見る
「リモートセンシング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?あまりなじみがない言葉かもしれませんが、日本語では「遠隔測定」などと訳されます。私はこの技術を使った研究を行っており、とくに空や宇宙から撮影した画像を使ってさまざまな情報を引き出すことを行っています。東日本大震災の時に、震災前と震災後の画像から津波被害の範囲を示していたのは、まさにリモートセンシングと言えます。
このように、リモートセンシングの技術を使うと、地上からは見ることができない広い範囲の情報を一度に取得することができます。
上空から見る海の景色は、海に潜って見える景色とはまた違った見え方がします。
最近は、Google Earthなどで簡単に画像を見ることができますので、興味があるかたは自分のお気に入りのスポットを上空から見てはいかがでしょうか?今まで気づかなかったいろいろな景色を発見でき、新たな潜る楽しみが増えるかもしれません。
長期間、広範囲の状況を比較する
石垣島の白保海域は、世界最大級といわれるアオサンゴの大群集があり、ご存知のかたも多いと思います。その白保でも大規模なサンゴの白化が起こり被害を受けていることが報告されています。多くの研究者が海に潜り、サンゴの白化・回復状況を詳細に調査しています。
しかし、泳いでの調査では広い範囲の状況を把握することが難しく、さらに、調査していない期間の状況を把握することができません。そこで、衛星画像(人工衛星に搭載されたセンサにより取得された画像)を使って海中の分類図を作成しました(図1)。この分類図を見ると、潜って調査するほど詳細な情報は得られませんが、どこにどのくらいのサンゴがいるかを広い範囲で把握することができます。また、衛星画像は過去30年程度の蓄積があるため、過去と現在の状況の比較も容易にすることが可能となります。
今回は1990年と2006年の画像から分類図を作成しました。1990年には現在より多くのサンゴが広く分布していますが、およそ20年の間に大幅な減少があったことがわかります。近年の大規模な白化の影響もありますが、その他の要因も複雑に絡みあってこれらの減少が引き起こされている可能性が考えられます。そのため、この間の期間についても分類図を作成することにより、どの時期にどの程度のサンゴが減少したかを把握し、その情報を基に、何がサンゴにとってストレスとなるかを特定する必要があります。
現場の情報を組み合わせ、新たな展開へ
衛星画像を使うことで広い範囲での有用な情報を取り出すことができますが、いろいろな不確定要素が含まれます。たとえば、今回の衛星画像を使った分類では、赤・緑・青の色のパターンの違いで分類項目を判定しています。これは、それぞれの分類項目で異なる色のパターンを示すことを利用していますが、サンゴに共生する褐虫藻が、海藻・海草と似た色の特徴を持つため、これら2つの項目を誤分類する可能性があります。
また、図1で示した分類図は、2006年に比べて1990年のほうが粗いことがわかります。これは、1990年の画像の解像度が30mで、2006年が10mであるためです。解像度が30mの場合は、1つの画素が30m四方の大きさで分類されます。当然、30m四方の中には、さまざまな分類項目が含まれていますが、ここでは、もっとも優占する項目に分類しています。そのため、1画素の中が複雑に構成されている場合は、1つの項目に特定することが難しく、誤分類する可能性があります。
したがって、実際に衛星画像が見ている場所のサンゴの有無情報を入手し、分類結果の正確さを検証することが非常に重要となります。サンゴ礁学では、白保でサンゴの増減を調査している研究者もいますので、これらのデータと合わせることで、共同研究が進んでいます。今後、これらの共同研究が発展していき、衛星画像だけではわからなかった結果がどんどん出てくることが楽しみです。
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文=石原光則(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 特別研究員)
筑波大学大学院システム情報工学研究科修了、博士(工学)。
画像データ(衛星画像・空中写真・webカメラ等)を用いた環境モニタリングに従事。
現在は、主に沿岸域を対象に研究を行っている。
【月刊ダイバー2011年10月号に掲載】
「サンゴ礁学とは?」
文部科学省の科学研究費の支援を受けた研究プロジェクトです。人とサンゴ礁が共生する社会を構築するための学術的な基礎をつくることを目的に、生物学・化学・地学・工学・人文社会学など、さまざまな分野の研究者65名が連携して研究を行っています。この連載では、サンゴ礁学の博士研究員や大学院生から成る「サンゴ礁学若手の会」が、それぞれの研究や専門分野における最新の研究情報をお伝えし、サンゴ礁の不思議を調べる研究の醍醐味をお伝えします。