1㎜の卵が心眼を開く 屋久島でダイビング Vol.3

海の中で小さな生物を探せるかどうかで、「目が良い」「目が悪い」いう言い方をするけれど、この場合の“目”とは視力のことではない。結局のところ、気づくか、気づかないかという問題だ。不思議なもので、それまでまったく見えなかったものが、一度何かの機会に気づくと、途端に目に入ってくるようになる。
シマキンチャクフグのメスは産卵が近づくと、岩肌の短い海藻をついばみながら、せっせとすり鉢状の産卵床を作り、オスはつねにそれに付いて回り、時折、メスの産卵口を刺激する。縄張り意識が強いヒレナガスズメダイなどに追い立てられながらも、なんとかメスは産卵床を作ると、そこにチョコンと乗っかるような感じで産卵を始める。その動きに合わせ、オスはメスの傍らにピッタリとくっつき、放精する。産卵時間は5秒程度。
こうした行動は明らかに産卵だとわかるのだが、カメラのレンズを通してこの卵を見ようとすると、最初のうちはなかなかこの卵が見つからなかった。僕と同じように「産卵はよく見るけれど、卵がなかなか見つからないよね」と言っている同業者もいたため、この産卵の多くはじつは疑似産卵なのではないか? と思ったり、見えないくらい極小の卵なのではないか? と思っていたりもした。また、産卵が終わるとメスはなにやらヒレをパタパタさせながら依然として産卵床に居残るのだが、これは卵の隠蔽工作を行っているのではないか? なんてことも考えた。
ところが伊豆で同属のキタマクラの産卵を繰り返し観察しているゲストダイバーにシマキンチャクフグの産卵を見せたところ、「そんなはずはない!」とばかりに即座に卵を見つけて、僕に指し示してくれた。あった! コロコロとした1~2mmくらいの透明感のある美しい卵が無数に産卵床に転がっていた。それは本当に美しくて、まるで宝石のようにキラキラと輝いており、これが生命の輝きなんだな……と考えると、余計に美しく思えた。

あれだけ探しても気づかなかった卵なのに、不思議なことにそれ以降は目を凝らさなくてもわかるくらいに卵が見えるようになった。しかも、ハナキンチャクフグやノコギリハギの卵も。こういうことはダイビングでの生物観察ではよくあることで、なぜ最初は見えなかったのかを説明するのはなかなか難しい。「気づかなかった=見えなかった」としか言いようがなく、生物観察における“目”とは視力のことではないと実感するばかりだ。その“目”とはもしかしたら「心の目」なのかもしれない。

 

AUTHOR

Takeuchi

DIVER ONLINE 編集部

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