ノトウミヒルモと虹
石川県・能登島の海は、夏29℃、冬は5℃と寒暖の差があるため、海の四季をはっきりと感じることができます。その季節ごとの変化を如実に表してくれるのが海の植物である海藻や海草です。
そして、海と人が共に暮らす「里海」という理想郷が存在する能登島の海中には、海藻の森が広がっています。海藻で見る四季の移り変わり、変化する海中環境、それに合わせて繰り返される生態行動など、ひとつひとつの海藻にまつわるストーリーを、能登島の海藻に魅せられたガイド・須原水紀さんが美しい写真とともに紹介します。
「朝霧」
秋の季語。雲のない澄んだ秋の夜空には星が瞬き、気温はグンと下がる。そして朝には冷え切った水蒸気が霧となり、刈り取られ地面がむき出しの田畑一面に朝霧が立ち込める。静かな朝が始まった。
「朝霧は晴れ」
昔から言われる秋の気象にまつわることわざ。朝霧が晴れると晴天。太陽が昇り気温が上がれば霧はすっかり晴れて、真っ青な青空が広がる。太陽はまっすぐに水中へ陽光を落とす。台風シーズンが過ぎて秋晴れが続くこの頃は、海の穏やかな日が多く、柔らかく吹く風に水面が揺れる。揺れる水面の屈折を経た陽光は、虹となって海の中を照らす。
この時期は圧倒的に水中の虹を撮った写真が増える。
色々なシチュエーションの虹を撮って遊んでみる。
ウミヒルモの砂地に落とす虹
ホンダワラの枝先を彩る虹
アマモの草原を生き生きと魅せる虹
アマモと虹
ホンダワラと虹
太陽が雲に入ると一休み。構えていたカメラを一旦おろし、じっとその場で光を待つ。そっと葉の上にかかった砂を落としてみたり、求愛するスイのオスの背びれの大きさにみとれてみたり。
スイ求愛
そうしているうちに太陽が雲を抜けると、水中は瞬く間に鮮やかな世界に様変わりする。一斉に藻から酸素が沸き立つ。水中の虹を集めて詰め込む、それはまるで宝石箱。それぞれの葉の形や色の違いを楽しみながら、そこに映し出された虹を集める。冬の足音が少しずつ聞こえてきていることに気づかぬふりして。
須原 水紀(すはら・みずき)さん
生まれ故郷である能登のダイビングサービス<能登島ダイビングリゾート>でガイドとして勤務。海藻への愛と情熱はピカイチ。また、マクロ生物も大好きで、海藻に付くマクロ生物を探し出す眼は「顕微鏡の眼力」といわれるほど。