世界農業遺産 能登の里山里海の中のダイビング 能登島の海藻にまつわる物語 Vol.11

海藻の森

石川県・能登島の海は、夏29℃、冬は5℃と寒暖の差があるため、海の四季をはっきりと感じることができます。その季節ごとの変化を如実に表してくれるのが海の植物である海藻や海草です。
そして、海と人が共に暮らす「里海」という理想郷が存在する能登島の海中には、海藻の森が広がっています。海藻で見る四季の移り変わり、変化する海中環境、それに合わせて繰り返される生態行動など、ひとつひとつの海藻にまつわるストーリーを、能登島の海藻に魅せられたガイド・須原水紀さんが美しい写真とともに紹介します。

先日、「能登の里山里海」が世界農業遺産に認定された、5年周年記念シンポジウムが開催された。私どももこの里海の資源の恩恵を受け、世界農業遺産を受ける地域人として、5年の歩みと今後の可能性に積極的な取り組みを続けたいと思っている。

「世界農業遺産」や「里海」という言葉には、一般的には「農業という産業的なもの?」、「里海は漁業だけのこと?」などと、うまく理解できない難しい言葉であるという印象だ。会場では「世界農業遺産とは何か」ということが、改めて語られた。国連食糧農業機関が創設した制度で「Globally Important Agricultural Heritage Systems」という。当時の認定を推進したメンバーにより「世界農業遺産」と日本語で解したとのことだが、重要な部分は「Heritage System」の部分であり、遠い昔から続く農業漁業の土地の利用と、それに育まれた文化、景観、生物多様性の地域を「継承するシステム」であることだ。つまり、現状を賞賛するだけではなく、これを次世代に継承することを目的とした制度なのだ。もともとは、途上地域を飢えから救済する目的で農業の発展を目指すところから始まった経緯があるが、世界で初めて先進国である日本での認定に、世界の注目も高まったと聞いた。

里山里海

さて、私どもの潜水も里海の継承システムに関わっている。漁師さんの手助けや、地域の子供・学生への自然教育、海上安全啓蒙など。そして忘れてはいけないのが、海を楽しむダイバーたちへの里海の開放です。守られるべき遺産の里海ですが、実はこれは保護ではなく保全なのです。「保護」とは自然を手つかずに残すことで、「保全」は人が介して積極的に自然を守ることだそうだ。海辺に人が暮らし文化が育まれ、その地域を尋ねる人々で交流が生まれる。すると経済的循環が生じて、継承できるように保全されていく。私たちダイバーも、この能登の海の魅力を求めて、水中のいきものや植物の生態・景観に感動を覚える。地域を深く知り、日本の海辺の歴史や文化、そして人の心に触れあう体験を味わっている。最近では、能登島の中でマリンレジャーの楽しみ方を整理する活動が始まった。地域が協力し合いレジャーを受け入れていく方針だ。これも人を介した自然の保全であり、健全な関係性を築くことにつながると思う。

「世界農業遺産」、「里海」という言葉は、現在では少なからず正しく知られていない現状があるけれど、能登を発信の基地として多くの方に「世界農業遺産 能登の里山里海」を訪れて、日本の海の魅力に触れてほしいと思う。

須原 水紀(すはら・みずき)さん
生まれ故郷である能登のダイビングサービス<能登島ダイビングリゾート>でガイドとして勤務。海藻への愛と情熱はピカイチ。また、マクロ生物も大好きで、海藻に付くマクロ生物を探し出す眼は「顕微鏡の眼力」といわれるほど。

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AUTHOR

Takeuchi

DIVER ONLINE 編集部

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