ホソエガサにつくイギスの仲間
石川県・能登島の海は、夏29℃、冬は5℃と寒暖の差があるため、海の四季をはっきりと感じることができます。その季節ごとの変化を如実に表してくれるのが海の植物である海藻や海草です。
そして、海と人が共に暮らす「里海」という理想郷が存在する能登島の海中には、海藻の森が広がっています。海藻で見る四季の移り変わり、変化する海中環境、それに合わせて繰り返される生態行動など、ひとつひとつの海藻にまつわるストーリーを、能登島の海藻に魅せられたガイド・須原水紀さんが美しい写真とともに紹介します。
能登島の海藻を代表するホソエガサは、今や能登島に潜りに来られるお客様の人気をひとり占めにしている。絶滅危惧種1類に指定されている貴重な種である上に、その色や形に他の海藻にはない美しさがあり、ダイバーの心を魅了してやまない。英名「Mermaid!s Wineglass~人魚のワイングラス」と名付けたのは誰なんでしょう。この愛称がさらにホソエガサの人気に火をつけたように思う。
ホソエガサのシーズンは6月から10月までとけっこう長く見られるが、咲き始めの頃の無垢なものは本当に一瞬しか見られない。水温の上昇と、個体数の増加につれて、真白な茎や傘の部分から生える綿毛には砂や付着藻類で汚れて見える。カメラを持って潜る大抵のお客様は頭を悩ませている。こうしたホソエガサを見ると、シーズンも終盤を迎えているように思われるかもしれないが、毎年見ている私の感覚では、ワンシーズンに盛衰が何度か繰り返されているように思う。枯れかけるものの横に、これから傘を広げようとしているものもあり、3週くらいで全体的な周期が回っているように感じる。
ホソエガサの胞子
私はホソエガサに限らず、海藻の様々なステージに興味を持って見るように心がけている。新しい芽を伸ばす頃や、花を咲かせる頃も美しいが、朽ちてゆく時の姿も好きである。ホンダワラの仲間は、枯れる寸前の気泡は色素が抜けて透明になり、太陽の光がそれを通してガラスのように光る。それはそれで、ひとつのシーンとして捕えると海藻の色々な姿にまた感動されられる。
ホソエガサに関しては、成熟したホソエガサのグラスは縦にいくつかの部屋に分かれる。その部屋の中にビーズのような粒々の緑色の胞子が詰まっているようになる。それが少しずつ外に放出され、後には空っぽになったワイングラスが透明になって残る。また、グラスの柄の部分にイギスの仲間のような藻類が付着するのだが、それもまた撮ってみると飾りとなって意外と面白い画になって驚く。
こうしてそれぞれの海藻の色んなシーンを追ってみると、意外な一面を知って、ますますその海藻を好きになってしまう。一番美しい時期を逃さないのも大切だけど、色々なステージの楽しみ方もお伝えして、海藻がもっと愛される存在になることを願う。
須原 水紀(すはら・みずき)さん
生まれ故郷である能登のダイビングサービス<能登島ダイビングリゾート>でガイドとして勤務。海藻への愛と情熱はピカイチ。また、マクロ生物も大好きで、海藻に付くマクロ生物を探し出す眼は「顕微鏡の眼力」といわれるほど。