考古学では、遺跡の調査を行うときに「実測」という独特の手法を用いて、遺跡の情報を記録している。「実測」の言葉の意味を検索してみると、「実際に測ること、実地の計測・測量」と出てくる。その名のごとく、見つかったもの(遺物)や、過去の人々の活動の痕跡(遺構)の実寸法を正確に測り、図上に写し取ることで描いていく製図方法だ。実際は立体的な遺跡の状況を真上から見た状態で、二次元の図面に写し取っていく。枠などのマス目をめやすに、スタッフという大きな定規や巻き尺などを使って計測し、1mmの方眼紙の上に描いていくのだ。想像を絶するほど地道で細かい作業だが、記録をとると同時にじっくり観察もすることができる、スグレモノの手法である。
枠のマス目を方眼紙のマス目に見立て、測ったとおりに描いていく。水の中で紙は使えないため、マイラーという耐水性シートを使用する
壷や釘などの物が広範囲に散乱している状況や、鉄錨や船の部材のように実寸大では方眼紙になかなか収まりきらない大きなものは、実寸大でなく10分の1や20分の1のサイズで描いていく。ただ、水中では、とくに深度が深くなるとこの単純な割り算すらできなくなるのだ。陸上では何の苦もない20分の1の計算が、水中では高度になる。ミスの原因になるため、私は基本的に複雑な計算が必要無い10分の1で描くようにしている。
ヒモの先に付けたおもりを垂らし、計測したい地点の真上の位置のメモリを記録する
この作業を水中で実際に行うのは、ダイバーになりたての頃は至難の業だった。陸上ではできることが水中ではできない。俯瞰しやすい場所にとどまろうとしてもできず、枠の上をグルグル、陸上での作業をイメージして同じ姿勢をとろうとしても身体が言うことをきかない、呼吸をするたびに上半身がブレて安定しない、失くさないように鉛筆に付けているヒモが絡まる、などもどかしいことだらけだった。そして悪戦苦闘するうちにエアはどんどん消費されていく……。しかしながら考古学的な調査である以上、求められる図面の完成度は陸上の遺跡の場合と同じレベルなのだ。
実測図の一例。アンチ浜海底の碇石。(片桐・比嘉・崎原2005を転載)
<参考文献>
片桐千亜紀・比嘉尚輝・崎原恒寿2005「本部町瀬底島アンチ浜海底発見の碇石」『沖縄埋文研究3』p.61-63.沖縄県立埋蔵文化財センター
考古学3つの原則
「遺物には触らない」「遺物を動かさない」「遺物を取り上げない」
考古学では何がどこにどのようにあるかを確認することがもっとも重要です。3つの原則を守り、遺物かな? と思うものがありましたら、DIVER編集部までお知らせください! >>hp@diver-web.jp
写真=山本 遊児さん
水中文化遺産カメラマン/アジア水中考古学研究所撮影調査技師/水中考古学研究所研究員/南西諸島水中考古学会会員/The International Research Institute for Archaeology and Ethnology 研究員
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http://membership9.wix.com/iriae#!yamamoto-biografia/cddr
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文=中西 裕見子さん
大阪府教育長文化財保護課総括主査/日本考古学協会会員/ 南西諸島水中文化遺産研究会会員/アジア水中考古学研究所会員/ダイブチームムラタダイブマスター(NAUI)