呼吸苦 Dr.山見のダイバーズクリニックvol. 17

今回のテーマは、呼吸苦、息苦しさです。激しい運動による息切れではなく、病気が原因の息苦しさがあります。気管支喘息や過換気症候群は、突然の発作もあるので注意が必要です。

原因はカラダの問題か、器材トラブルか

●ダイビング中の息苦しさについて教えてください。

山見:息が苦しくなる原因は大きく2つに分かれます。1つは身体的な要因、もう1つは器材の不調です(表1)。身体的な要因には病的な要因とそれ以外があります。さらに、病的な要因は肉体的な病気と精神的な病気に分かれます。

●肉体的な病気というと?

山見:気管支喘息(図1)、慢性閉塞性肺疾患(図2)*1、浸水性肺水腫(図3)*2などの呼吸器疾患、心不全などの心臓病があります。

●ダイビング中に気管支喘息が発症するとどうなりますか?

山見:気管支喘息は、水中で呼吸が苦しくなる病気の中でもっとも多く、重大な事故を招くことがあります。エントリー前に症状がなくても、水中で突然発作が現れ、溺れることもあります。

●突然の発作は怖いですね。

山見:それに対して、慢性閉塞性肺疾患は経過の長い病気なので、水中で突然発症することはありません。慢性閉塞性肺疾患の方は、運動能力が低下しているため、潮流に流されるなどのトラブルに遭遇することがあります。また、慢性閉塞性肺疾患の中でも、肺胞構造が壊れている肺気腫が進行していると、ダイビング中(特に浮上時)、肺気圧外傷(肺破裂)が見られることがあります。

水中で突然発症!浸水性肺水腫

山見:浸水性肺水腫はダイビング中、肺胞に体液が溜まる病気です(血液中の血漿や組織液が肺胞に移動する)。肺胞に体液が溜まるとガス交換ができなくなり、息が苦しくなります。徐々に起こることもありますが、突然、発症することもあります。運動量が上がるにつれて息苦しくなるときは浸水性肺水腫を疑いましょう。

●水中で突然息苦しさに襲われたら、どう対応すればいいのでしょうか。

山見:運動量を減らして潜水深度を浅くしてください。安全な浮上速度を保ち、慌てず速やかにエグジットする必要があります。エグジット後も息切れが続くときは浸水性肺水腫の可能性が高くなります。ただちに酸素吸入を行い、病院を受診する必要があります。

●受診の際の注意点は?

山見:医師に「ダイビングをして浸水性肺水腫を起こした可能性がある」と告げることです。ほとんどの医師は浸水性肺水腫を診たことがないため、専門家にアドバイスを求める必要があるからです。浸水性肺水腫の治療は酸素吸入ですが、減圧症を合併している可能性があれば高気圧酸素治療も行います。合併症がなければ、酸素吸入をしながら安静臥位を保つことで24 〜72時間以内に軽快します。

溺れの原因にも過換気症候群

●息苦しさの原因となる精神的な病気についても、教えてください。

山見:精神的な病気には過換気症候群や不安神経症があります。精神的な病気の中でもっとも多いの
は過換気症候群です。その誘因は緊張、精神的ストレス、疲労などです。

●どういう症状が現れるのでしょうか?

山見:発作が起こると、呼吸が浅く速くなり、手足が硬直し、しびれや頭がボーっとするなどの症状が現れます。発作は自分自身でコントロールできないため、ふつう数十分〜数時間続きます。過換気症候群は溺れの原因となるため、発作を起こしやすい方は、十分注意する必要があります。

●水中で発作が起きてしまったら?

山見:減圧症に留意してエグジットします。エグジット後は安静臥位を保ちます。身体が冷えていれば保温し、ゆっくり呼吸するよう努めます。以前は紙袋を口に当てて、吐いた空気を再呼吸する対処法が進められていましたが、現在は酸素マスクを使った酸素吸入が推奨されています。

不安感が引き起こすビギナーに多い呼吸苦

●病気以外の身体的な原因というと?

山見:心理的な影響、運動、加齢があります。ビギナーと中高齢ダイバーに、心理的な影響がよく見られます。初心者では水面移動〜潜降時に、中高齢者では深度を深くしたときに現れる傾向があります。ビギナーは、緊張し非効率的に動くため、水面移動中〜潜降中、血圧が上がり心拍数と呼吸数が増加します。不安が高まるほど、フィンをバタつかせ、腕で水をかく動作が増えるため、呼吸が苦しくなります。水面で呼吸苦があるときは、BCで浮力を確保するかブイなどにつかまって動くのをやめ、空気を無理なく吸える状態で緊張が取れる姿勢を保ちます。不安と緊張が続くときは、やや深めにゆっくり呼吸しましょう。

●水中で息苦しくなったときは?

山見:動くのをやめ、やや深めに呼吸します。泳ぎ続けるのであれば、運動量に応じた呼吸回数を保つことが重要です。呼吸回数が少ないと、二酸化炭素が徐々に蓄積し頭痛や吐き気、不安感が助長されます。
体力が低下していて心理的にも呼吸苦を感じやすいダイバーは、ゆっくり行動すること。深場では不安が呼吸苦を助長するので、常に余裕のある状態で泳ぐことが重要になります。中性浮力を保ち、できるだけ水の抵抗を受けないこと、筋肉に力を入れ続けないことも予防になります。

●高齢者はどのようなことに気をつければいいのでしょうか?

山見:高齢者はダイビング中、身体に二酸化炭素が溜まりやすい傾向があります。二酸化炭素が溜まると、息苦しいだけでなく不安も助長されます。二酸化炭素が身体に蓄積されるにはある程度時間が必要なため、症状は、エントリー後、数十分以上経過後、深い水深で現れる傾向があります。水中で呼吸苦が限界に達すると、パニックを起こし急浮上する行動も見られます。運動不足の中高齢者では、自覚している以上に心肺機能が低下していて、久しぶりにダイビングをしたとき、水中で呼吸が苦しくパニックになり溺れることがあります。十分に注意してください。

*1 慢性閉塞性肺疾患:慢性閉塞性肺疾患は一般にCOPD と呼ばれている。肺胞や気管が障害され、換気能力(肺の空気を出し入れする能力)が低下する病気。肺の構造が壊れる肺気腫と、咳が長く続く慢性気管支炎がある。
*2 浸水性肺水腫:ダイビング中、肺内に体液が溜まり息が苦しくなる病気。高血圧、レギュレーターの呼吸抵抗、過度の息こらえなどが誘因となる。
*3 心臓が弱り血液を押し出せない状態のこと。心臓病などの持病が悪化することで発症する。ダイビング中に突然発症することはめったにないが、弁膜症や心筋症が急激に悪化して救急搬送されることはある。
*4 タンクバルブの開放不足:バルブを十分開放せずにダイビングを開始すると、潜降中、エアの供給が途絶えてしまうことがある。たとえばバルブを半回転しか開けずに潜降すると、数m潜降しただけでエアが来なくなる。

コラムニスト

山見 信夫(やまみ・のぶお)先生

医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい。

>>ドクター山見 公式webサイトはこちら
http://www.divingmedicine.jp/
*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)

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Koga

DIVER ONLINE 編集部

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