エア消費 Dr.山見のダイバーズクリニックvol.18

今回のテーマは前回に続いて呼吸に関連する「エア消費」。エアの消費量が多いと悩んでいる方は意外に多いようです。身体的な要因を知って、問題点を解決していきましょう。

エア消費を左右する身体的な問題

●エア消費には身体の問題がいろいろ関わっていそうですね。

山見:表1にあるように、身体の大きさ、筋肉量、肺活量、酸素摂取量(呼吸で取り入れられる酸素量)、運動量(運動強度)、日頃の運動不足(体力低下)、不規則な呼吸、緊張、冷え、器材が受ける水の抵抗、器材による身体拘束が要因として挙げられます。

●体格による違いはありますか?

山見:肺活量は体重より身長に関係しています。体格がいい人は身長が高いため、肺活量も大きい傾向があります。筋肉もたくさん付いているため酸素摂取量が多く、エア消費が早まります。筋肉を動かすには酸素が必要ですからね。一般に男性のほうが女性よりエア消費が多いのはこのためです。

●活発に動くと、エア消費は増えますよね?

山見:運動量は大きな要因です。エア消費に直接かかわる肺の換気量(呼吸回数と深さ)は運動強度に応じて増加するからです。たとえば、安静時にエアを毎分7ℓ消費する男性では、ゆっくり泳ぐだけで1.5 倍以上増加し毎分10ℓを超します。エア消費を少なくするには運動量を抑えることが最大のカギになります。

●日頃の運動不足も、関係しますか?

山見:運動不足の方は酸素摂取に対して運動効率が悪いため、エア消費が速まるのです。日頃から適度な運動を心がけてください。

 

負荷を避け効率よく呼吸する

●呼吸の仕方も影響がありますか?

山見:不規則な呼吸は、結果的に換気量を増加させることがあります。呼吸は浅すぎでも深すぎても効率が悪く、酸素の吸収と二酸化炭素の排出が低下します。とくに、呼吸回数が減ると、身体に二酸化炭素がたまります。スキップ呼吸やホールド呼吸をすると一時的にエア消費を抑えることができますが、長時間続けると二酸化炭素蓄積による頭痛や吐き気が現れます。

●ビギナーのエア消費が速いのは?

山見:緊張すると心拍数が増え、酸素消費量が増加するためですね。緊張しているダイバーは手足をバタつかせ、姿勢を維持するために身体のあちこちに力が入りエア消費が速まります。

●冬場にエアの消費が増えるのは低水温のためでしょうか?

山見:冷えもエア消費を増加させる要因になります。水中で震えが止まらないほど冷えたダイバーは、保温時より2 倍以上エア消費が早くなることがあります。

●器材の問題もありますか?

山見:水の抵抗を受ける器材は、遊泳時の運動負荷を増大させ、エア消費を早めます。エア消費を抑えるには、器材を身体にフィットさせることが大切です。アクセサリーやゲージをぶら下げると水の抵抗が増えるため、身体に付ける物はシンプルにすることが大事です。窮屈なウエットスーツを着たり、脚力に合わないフィンを使用してもエア消費が早まります。

● BC への給気方法にも気をつけたほうがよさそうですね。

山見:出し入れが多いとタンク内のエアが減ってしまいます。BCの代わりに、肺の空気(吸気と呼気)で中性浮力を保てば、空気を温存できますが、長時間行うと二酸化炭素蓄積による頭痛や吐き気を催すことがありますので注意が必要です。ダイビング中のエア消費を減らす方法を表2 にまとめましたので、参考にしてください。

 

あなたの肺は大丈夫? 呼吸機能を検査する

●ダイビングに適しているかを調べる呼吸の検査はありますか?

山見:呼吸機能検査(スパイロメトリーまたはスパイロと呼ばれている)(図1)があります。
1. 呼気時に肺の空気がスムーズに排出されるか、
2.肺がじゅうぶん広がるかを知るために行われます。呼気時に肺の空気が排出されにくければ、浮上のとき、肺が膨張して破れやすくなりますし、運動能力も低下します。また、肺の広がりが悪ければ、ダイビング中の運動能力が低下し溺れなどのトラブルを起こしやすくなります。

●どんな検査でしょうか?

山見:肺の空気がスムーズに排出されるかは、1 秒率という検査項目で調べます。1 秒率は息を最大限に吸った状態から、精いっぱい努力して吐いたとき、最初の1 秒間に吐けた割合(%:肺活量に対する割合)を現します。気管や気管支が閉塞していたり、肺を収縮させる力が弱まっているときに異常な値(70%未満)が見られます(図2)。

●肺の広がりをみるのは?
山見:おもに肺活量で判断されます。肺活量は、息を最大限に吸い、吐き切る行為をしたときの吐いた空気の量です(図1のVC)。判定には主に図2 に示した基準を用います。1 秒率は70 % 未満、肺活量は80%未満を異常と見なします。

●肺の病気があると、基準に満たないことがあるのですね。

山見:1秒率が低下する主な病気には、気管支喘息や閉塞性肺疾患(肺気腫と慢性気管支炎)があります(閉塞性障害または閉塞性肺疾患といいます)。一方、肺活量が低下する病気には肺気腫や肺線維症などがあります(拘束性障害または拘束性肺疾患といいます)。1秒率低下と肺活量低下の両方ある場合は混合性障害といいます。こうした病気のある方は、ダイビングを始める前に、専門医を受診してください。

 

ダイビング中、呼吸しにくいのは?

●ダイビング中の呼吸の抵抗感は器材のせいでしょうか?

山見:空気の密度は水圧がかかると増加します。そのためダイビング中は陸上にいるときより、気道(気管)を通過する空気の抵抗が上がります。しかし、最近のレギュレータは性能がいいため、呼吸抵抗の増加は気になりません。

●スーツを着ると呼吸がしにくくなる気がするのですが?

山見:ダイビングスーツは、呼吸抵抗をいくらか増加させることがあります。とくにドライスーツは、身体とスーツの間に空間ができるため、潜降するとたまっている空気が圧縮されて身体も圧迫されることがあります。身体全体が締め付けられることもありますし、体の一部(胸や四肢など)が締め付けられることもあります。圧縮された状態はドライスーツスクイズとも呼ばれています。予防のために、潜降時、ドライスーツ内に空気を送り込みます。

●ウエットスーツはどうでしょう?

山見:ウエットスーツは、陸上では体に密着して胸郭の広がりを悪くしますが、ダイビング中は素材内の空気が圧縮されるため、ゆとりができて胸の圧迫感が減少する傾向があります。大きな影響はないと言えるでしょう。

コラムニスト

山見 信夫(やまみ・のぶお)先生


医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい

>>ドクター山見 公式webサイトはこちら
http://www.divingmedicine.jp/
*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)

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Koga

DIVER ONLINE 編集部

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