「アナフィラキシー」で生命のキケンも!
—ときどき耳にする「アナフィラキシー」とは、どういうものなのでしょう?
山見 原因となる物質(アレルゲン)が体内に入ったり触れたりした後、数分から数時間以内に現れる激しい全身性のアレルギー反応のことを「アナフィラキシー」といいます。
—ダイビングで見られる可能性はありますか?
山見 クラゲやオニヒトデなどの水中生物に刺されたとき、あるいはラテックスに触れたときなどに発生しています。
—どんな症状が見られますか?
山見 表1のような症状が見られます。アナフィラキシーの中でも、血圧低下、呼吸困難、意識がなくなるなどの重篤な状態をアナフィラキシー・ショックといいます。
■表1 アナフィラキシーの主な症状
症状 | |
全身状態 | 不安感、無気力、冷汗 |
---|---|
循環器症状 | 動悸、胸が苦しくなる、血圧低下*、脈拍が弱くなる(脈をふれにくい*)、脈が不規則* チアノーゼ(唇や爪が青白い*) |
呼吸器症状 | 鼻がつまる、のどや胸が締め付けられる*、くしゃみ、発作性の咳(持続する強い咳込み*)、呼吸困難(呼吸がしにくい*)、ゼーゼー・ヒューヒューする呼吸*、犬がほえるような咳*、声がかすれる* |
消化器症状 | 吐き気、腹痛(我慢できない持続する強いおなかの痛み*)、口の中の違和感、便意や尿意をもよおす、おなかがゴロゴロする、嘔吐(繰り返し吐き続ける*)、下痢、便や尿を漏らす* |
粘膜・皮膚症状 | かゆみ、皮膚が白くなるまたは赤くなる、蕁麻疹、まぶたの腫れ、口の中の腫れ |
神経症状 | 唇のしびれ感、手足のしびれ感、耳鳴り、めまい、目の前が暗くなる、けいれん、意識障害(意識がもうろうとしている*)、ぐったりしている* |
*の症状が現れたらできるだけ早く
エピペンを注射することが推奨されています。
—対策はありますか?
山見 まず、水中生物に刺されないことが重要です。以前刺されたことのある水中生物、特に刺されたときに体調が悪くなった経験がある生物には絶対に刺されないようにしましょう。2度以上刺されたときに、アナフィラキシー症状は重篤になります。
—もしも症状が出たら?
山見 アナフィラキシー症状は、身体を動かすほど悪化する傾向があるので、横になり安静を保ちます。
経験者なら「エピペン」は必携
—緊急用の注射薬もあるようですね?
山見 水中生物に刺されて体調が悪くなったことがある方は、エピペン(アドレナリン自己注射薬)(写真1)を携帯しましょう。病院を受診し、これまでアナフィラキシー症状が現れたことがあることを伝えれば処方してもらえます。
エピペン(練習用)
—どんな薬なのですか?
山見 エピペンは、病院に到着するまでの間、症状の進行を一時的に和らげショックを防いでくれる補助治療薬です。エピペンを使用すると80%以上の方に症状の改善が見られます。
—どうやって注射するのですか?
山見 太ももの外側の皮膚に直接接種します。緊急を要しますから接種前の消毒はしません。一刻を争うときは写真のようにウェットスーツの上から接種することもできます(写真2)。ただし注射針は1・5㎝しかなく、針が筋肉まで到達する必要があるため、厚手のウェットスーツでは接種できないこともあります。
エピペンの接種
—エピペンを使うときの注意点は?
山見 表1の*印のような症状が1つでも見られたら、まず救急車を呼び、急いでエピペンを注射します。アナフィラキシー症状が現れてから心臓が止まるまでの時間は30分程度です。余裕がありませんからエピペンはいつもすぐに注射できるところに置いておかなければいけません。
—普通に持ち歩いていいのでしょうか?
山見 15〜30℃で保管しなければいけないので、真夏や真冬はクーラーボックスや保冷バッグに入れておく必要があります。普通は冷たい飲料水のペットボトルなどと一緒にクーラーボックスに入れてボートや海辺に持っていきます。冷凍庫で凍らせた保冷材は冷やし過ぎることがあるので、タオルなどで包んでおくといいでしょう。
ダイビングシーンでも可能性あり「接触皮膚炎」
—接触皮膚炎のことを教えてください。
山見 原因となる物質に接触した皮膚が赤くかゆくなる病気です
—ダイビングでもなりますか?
山見 ウエットスーツと接している皮膚が赤くなる皮膚炎を「ウエットスーツ皮膚炎」ということもあります。 ダイビング器材の中では、ラテックス(天然ゴム)素材の発症頻度が高く、ポリクロロプレン(ネオプレンゴムの主成分)などの合成ゴム、ポリウレタン、ポリプロピレンではあまり起こりません。
ラテックス製品による接触皮膚炎は、製造過程で添加される化学薬品によっても発生します。
—ラテックス以外のウエットスーツでも赤くなるダイバーはどのようなことが考えられますか?
山見 同じ生地なのに、あるウエットスーツではかゆくなり、別のものではかゆくならないこともあります。このようなときは、ウエットスーツに付着しているカビや微生物、化粧品などによる皮膚炎が考えられます。
—対策はありますか?
山見 ウエットスーツを変えること、ラッシュガードなどのインナーを着ること、ドライスーツに変更することで予防できます。
—発症してしまった場合は?
山見 抗アレルギー薬を服用し副腎皮質ステロイド薬を塗れば、多くは2〜3日以内によくなります。
ドライスーツは大丈夫?「ラテックス・アレルギー」
—ラテックスはアレルギーを起こしやすいのでしょうか?
山見 天然ゴム製品に接触したり吸入して生じる蕁麻疹、アナフィラキシー・ショック、気管支喘息発作などのアレルギー反応をラテックス・アレルギーといいます。
—ゴムでアレルギーが出るのですね。
山見 天然ゴム製品と接触することで生じるアレルギーには接触皮膚炎もありますが、天然ゴム製品の製造過程で添加される化学薬品が原因で生じる接触皮膚炎は、ラテックス・アレルギーとは別に扱います1※。
—主な症状は?
山見 ラテックス・アレルギーで最も多い症状は接触蕁麻疹です。接触した部分に、掻痒、発赤、膨疹、水疱が現れ全身性に広がることがあります。
—天然ゴム製品は、いろいろなところで使われていますよね。
山見 手袋、カテーテル・絆創膏などの医療用具、キッチン用手袋、ゴム風船、コンドームなどの日用品で見られます。
ダイビングでは、ドライスーツの首や手首周りの水密シール、一部の部品に使用されていることがあります。ラテックスのほうが、シリコーンやクロロプレンゴム(ネオプレンゴム)より首周りの圧迫感が少ないなどの理由から、部分交換された方に発症することがあります。
—対策は?
山見 ゴム製品と接触しないこと。これに尽きます。治療は抗アレルギー薬や副腎皮質ステロイド薬による対症療法になります。アナフィラキシーに対しては、血圧を上げる注射薬を必要とすることもあります。
意外な盲点! フルーツで発症?
ー「ラテックス・フルーツ症候群」という病気もあるそうですね。
山見 ラテックス・アレルギーの方の約半数は、果物や野菜(特にアボカド、バナナ、クリ、キウイフルーツ、トマト、ジャガイモなど)などのアレルギーも持っています。両方のアレルギーがある病気をラテックス・フルーツ症候群といいます。
ーどうして起こるのでしょう?
山見 ラテックスとフルーツに含まれるタンパク質が似ているために起こります。
ーどんな症状がみられますか?
山見 フルーツを食べた直後、多くは15分以内に唇や口の中が腫れて、かゆみやしびれが現れます。顔がむくみ、蕁麻疹が現れることもあります。ひどくなると息が苦しくなり、血圧が低下し、意識が遠のくこともあります(アナフィラキシー・ショック)。
ー怖いですね。
山見 同様にラテックスに触れたときにも蕁麻疹やアナフィラキシー症状が現れることがあります。
ーラテックスと接触する可能性が高いダイビングシーンでは気をつけたほうがよさそうです。
山見 そうですね。ダイビングツアー中にフルーツを食べて初めてラテックス・フルーツ症候群が発症したケースや、ダイビング後に発症したため減圧症と鑑別を要したケース、ダイビング器材のラテックス接触後に診断がついたケースなどがあります。
コラムニスト
山見 信夫(やまみ・のぶお)先生
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい。
>>ドクター山見 公式webサイトはこちら
http://www.divingmedicine.jp/
*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)