リバースブロックで浮上不可能 洞窟から一歩も出られない! 安全なダイビングのために Vol.37

DIVERの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。 <ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。 実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。

リバースブロックで浮上不可能 洞窟から一歩も出られない!

ダイビング歴5年のNさん(240本/女性)

鼻が詰まった状態で潜った3本目。耳抜きも不調のあげく、浮上時にリバースブロックになり、洞窟内で動けなくなった体験をご紹介します。

私は5年前に伊豆でCカードを取得し、毎月伊豆に通っています。これは3年ほど前、ダイビング仲間たちと計5人で、パラオへ潜りに行ったときの出来事です。

私以外の4人は経験本数200本以上でしたが、私はようやく100本を超えたところで、初めて訪れたパラオ。ダイビング2日目のこの日は外洋を2本潜り、3本目に「シャンデリア・ケーブ」という洞窟ポイントを予定していました。しかし、前夜にホテルでクーラーを強めにかけたまま就寝し、朝から身体のだるさと鼻の詰まりがひどかった私。朝のうちは耳が抜けるかとても心配でした。しかし2本とも問題なく、鼻詰まりも軽くなったので、たいしたことはないだろうと思っていました。

鼻が詰まったまま潜降と浮上を繰り返す

昼食後、ポイントに到着するとガイドがブリーフィングを始めます。洞窟内には4つのエアドームがあり、潜降と浮上を繰り返しながら3つ目のドームまで行くことになりました。しかし、耳抜きが不安だった私は、その旨をガイドに伝えると「耳が痛かったら、無理せず教えてください!」と言われ、さっそく準備をしてENしました。

ところが不安はまんまと的中し、私は3本目に限って、水深1mから耳抜きができません。なんとか水深5mの海底まで5分もかけて潜降し、全員で1つ目の洞窟に入りました。そこでは頭上に大きな鍾乳石がシャンデリアのように伸びていて、初めて見る光景に感動しつつ、耳の違和感が気になる私。しかしまだガイドに伝えるまでもないだろうと、先へ進みます。

2つ目の洞窟に入ると、全員で浮上しました。しばし水面から鍾乳洞を堪能した私たちは、再び潜降して3つ目の洞窟へ向かいます。ガイドは「耳はだいじょうぶ?」と聞いてくれますが、私は「だいじょうぶです」と答えました。しかしその直後、潜降2mで耳に激痛が走りました。「痛いーっ!」力強く鼻をつまんで力みますが、痛くて力も入りません。少し浮上すると頭が水面に出てしまったようで、またゼロからやり直し。「どうしよう、沈めない……」私は無意識に足をバタつかせ、みんなのライトが下で光るのを見ながら、気持ちは焦るばかりです。

耳が痛くて無理!仲間と離れ、一人暗闇の海底に残る

もう一度潜降を試みるも、やはり耳が痛くて堪りません。ガイドが見かねて私の頭を傾けたりしてくれますが、なかなか抜けません。ここでも5分以上かけて、なんとか水深7mまで沈みました。しかし「もう1回浮上して潜降するなんて、私には無理かも……」そう感じた私は、「ここにいるのでみんなで上見てきてください」とガイドに伝えました。すると少し考えた後、「じゃあ、すぐに戻るからここで待ってて」と、ガイドもそのまま浮上していきました。

海底に残った私は一人、不安に耐えながらじっとしていました。何分かしてみんなが潜降し始め、ガイドは「このままEXしよう」と言います。私は自分のせいで早々に戻ることになって申し訳ない気持ちでいっぱい。しかし、ガイドに誘導されるままその場を離れようとした、その時です。突然、前頭部に雷でも落ちたような激しい痛みが走りました。「痛ーーーっ!!」それは1㎝でも動こうものなら堪え難いほどの激しい痛み。私はふたたび岩をつかみ、手でおでこを押さえながら立ち止まりました。「もしかして、リバースブロック!?」膨張した空気が抜けなくなり、リバースブロックになると浮上できずエア切れになる、と何かで読んだのを思い出します。とっさに残圧を確認すると120でした。しかし「ここから動けないかも……」最悪の事態ばかりが脳裏を駆け巡り、恐怖で身体が震えだしました。

頭が割れるような激痛とエア切れの恐怖に暗闇で震えが止まらない

ガイドも、おでこを押さえる私を見て状況を察したようで、私の腕をつかんで支えてくれます。数分ほどして痛みがほんの少し治まってきた頃、ガイドに「水深を変えずに出口まで行こう」と言われました。しかし恐怖で身体の震えが止まりません。私は手を引かれるまま、おそるおそる出口の光を目指します。そうして明るい場所まではなんとか泳げたものの、そこからはまったく上がれず、岩にしがみつく私。ガイドや仲間たちは「深呼吸して」「エアはたっぷりあるからだいじょうぶ」と励ましてくれます。

私は激痛と恐怖に涙を流しながら、海底をはうように1㎝ずつ浮上を試みて、痛みが増すたびに後退、を何度となく繰り返します。水深が浅かったのでエア切れは免れることができましたが、あまりの痛みに頭が割れるのではないかと思ったほど。ときどき耳の奥から「ブスッ」と空気が抜けるような音がしますが、激痛で意識ももうろうとしてきます。そうして20分ほどして、私はようやく水面に浮上できたのでした。

EX後も前頭部や耳に痛みや耳鳴りが残り、その日はホテルで安静に過ごしました。翌日、症状は消えていましたが、恐怖が拭えなかった私はその後のダイビングを中止し、パラオを後にしたのでした。

PADIコースディレクターからのコメント

トラブル回避のためにも体調管理は万全に

今回のトラブルの原因は、明らかに朝からの鼻づまりです。潜降と浮上を繰り返すポイントは、耳抜きのトラブルを招きやすい場所。しかも3本目とあって、アップダウンと疲労の蓄積でよけい抜けづらくなったのでしょう。

水深5mまで潜降するのに5分もかかる状態では、このポイントでのダイビングはそもそも無理です。無理に潜降しても、リバースブロックになってしまうのは必然です。いざなってしまったら、耳抜きを繰り返しながらちょっとずつ浮上するしか方法はありません。今回のように、浮上中に突然バキっ!とか、ブスっ!と音がして、リバースブロックから解放されることも有ります。

ダイビング当日の体調管理は、なによりも大切です。寝不足や風邪、そして、今の季節にありがちなエアコンの風を浴びながらの就寝。深酒。さまざまな要素で耳の圧平衡の可否は変わってきます。まずはご自身の体調管理に気をつけることと、耳や鼻に違和感がある場合はダイビングそのものものを控えるなど、無理をしない遊び方を考えましょう。

トラブル脱出体験談募集中! >>edit@diver-web.jp

内容を簡単に記入のうえ、本誌「危機からの脱出係」まで。ハガキ、封書、FAXでも応募可。採用のかたはこちらから連絡いたします。

 

 

アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん

静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/

AUTHOR

Koga

DIVER ONLINE 編集部

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