メンバーが次々と急浮上 水深17mに取り残される
西伊豆にダイビングに出かけたTさん(470本/男性)
視界不良の海でいっしょに潜ったビギナーダイバー3人が、目の前で次々と急浮上し、チームがバラバラになった体験をご紹介します。
以下はダイバー本人の体験談です。
10年前にダイビングを始め、伊豆を中心に潜り続けています。あれは今年4月下旬のことでした。よく利用する伊豆のお店で、友人Aさんとファンダイビングを申し込んでいました。ポイントは西伊豆の雲見。いっしょに潜るのは僕とAさん、そして経験本数50本前後のBさん、Cさん、Dさんの3人組、ガイドの計6人です。
あいにく天候は雨、水中は春濁りで透明度5m前後。流れもあるようで、ブリーフィングでは「今日のコンディションはよくありません。もしはぐれたら迎えに行きますので、その場で待っていてください。もし出会えなれば、浮上して水面で合流しましょう」との注意がありました。僕とAさんは400本を超えていますが、他の3人はまだ慣れないようだったので、ガイドはボートダイビングでの注意点や、万が一のときの対処法も説明していました。
浮力調整に失敗して1人目が急浮上
1本目は、小牛岩側からエントリーします。水中に入ると視界は悪く、前の人が1〜2人見える程度。ガイドは水底で全員を確認し、小牛岩を左手にして進み始めます。
僕とBさんはガイドのすぐ後ろを泳いでいましたが、そのうちBさんが遅れだし、ふと僕の視界から消えていきました。「あれ? いなくなった!」僕はロクハンでしたが、他の4人はドライスーツで、その時Bさんはドライスーツの浮力調整に失敗して浮上してしまったようなのです。すると、後ろを振り返ってBさんがいないことに気づいたガイドは、そのまま僕たちには何の指示も出さずに来た道を戻り始め、僕たち4人はその場に取り残されてしまいました。「Bさんを探しに行ったのだろう」とは思いましたが、そこは視界の悪い水深17m。最初は岩につかまって待っていたのですが、ガイドはなかなか戻ってきません。そのうちにみんなが少しずつ離れ始め、僕もみんなと同じ中層に浮きながら待つことにしました。
しばらくしてふと気がつくと、左手に見えていた岩がいつの間にか見えなくなっているではありませんか。「あれ、流されてる? このままではどんどん離されていく……」そんな不安が脳裏をよぎりますが、その時の僕たちは、ここにいる4人が離れないように固まっておくことしかできません。「1人でもはぐれてバラバラに流されたら見つけられないだろうし、何かが起こればすぐにパニックで事故になる」そんな最悪のシナリオを思い浮かべながら、僕は必死で冷静にどうするべきかを考えていました。
2人目はフロートといっしょに水面へ
もちろん、ガイドが迎えにくる気配はいっこうになく、浮上していったBさんがどうなったのかもその時点ではわかりません。しかし、このままここにいてもどこまでも流されるだけ。そこで僕はみんなに「ゆっくり浮上しましょう」とスレートに書き、はぐれないように全員で固まって、ゆっくりと水深を上げていくことにしました。
すると、Cさんがシグナルフロートを上げようと準備を始めました。しかし、そこはまだ水深13m。フロートには50cm程度の短いロープが付いていたのですが、動揺していたのか、Cさんはその場でエアを入れ、フロートを打ち上げました。案の定、Cさんは水深13m地点から、フロートとともにエレベーター式に急浮上してしまいました。残されたのは僕とAさんとDさん。不安そうな表情のDさんに「固まってゆっくり上がりましょう」と再び合図し、水深5mまで浮上したところで、3人で安全停止を始めます。
3人目は、安全停止ができず浅場から急浮上
Dさんはコンピュータを持っておらず、中性浮力も不安なのか、僕とAさんより深い所にいます。「もう少し上へ」と伝え、水深を上げてくるDさんでしたがドライスーツの浮力調整に失敗。水面まで一気に浮上してしまいました。
最後に残されたAさんと僕はそのまま3分間の安全停止を続けていると、ガイドがボートで迎えに来て、僕らの安全停止の地点まで潜ってきました。そして安全停止3分を終えて僕たちもEX。ボートに上がると、最初に急浮上したBさん、フロートとともに急浮上したCさん、そして最後に急浮上したDさんの姿もあり、全員が無事にEXすることができたようでした。
後からの話では、ガイドは浮上したBさんを連れて再び潜降し、根に沿って戻ったようですが、もちろんそこに僕たちの姿はなく、しかたなくEXしてボートから探していたところでフロートが見えたとのこと。しかしガイドは「岩につかまって待っていてほしかった」と言ってきました。ならば、Bさんを探しに行く前に、的確な指示を出してくれるべきだったのでは? 残された4人も全員いっしょだったから無事だったものの、誰かがはぐれたり、パニックになったり、一歩間違えば大事故にもつながりうること。僕も不安でいっぱいでしたが、何事もなく済んでよかったと思っています。
PADIコースディレクターからのコメント
はぐれた場合の打ち合わせを確実に。安全停止はせず、ゆっくり浮上を優先する
はぐれたときの打ち合わせが、じゅうぶんではなかったようです。バディ単位では問題なくても、ダイビングがグループ全体での動きであることを考えて行動できていませんでした。
ブリーフィングのとおり、可能な限りその場を移動しないで待っているべきです。ただ流れもあり、ガイドも明確な指示をしないで離れてしまいましたから、しかたないかもしれません。透明度が悪い場合、はぐれたことがわかった時点で、全員で浮上することをガイドと打ち合わせしておくべきでした。安全停止も大切ですが、全員が無事にEXできることが大切ですから、状況に応じて対処するべきでした。
安全停止は減圧症の予防にはなりますが、停止後、水面目がけて飛び上がるように浮上する人をよく見ます。浮上のスピードをできる限り遅くする。そのことも大切です。はぐれたとわかった時点で、安全停止にはこだわらず、可能な限りスピードを抑えて浮上。全員の無事が確認できての“安全”だったと言えるでしょう。
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アドバイザー
我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。
>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/