マリン
ビギナーダイバー。昨年からトレーニングしているが、なかなか上達しない。口は一人前
ジョー
経験本数100本以上の中堅ダイバー。三味線の名手らしい
蝶々夫人
知識豊富なインストラクター。しかし、セレブ一家に育ったため、世間知らずなところがある
黒潮と運命に翻弄される淋しい熱帯魚
ジョー:待ちに待ったシメツの季節がやってきたぜぃ!! もう毎週でも伊豆に通いたくなっちゃうよな。
マリン:シメツって、なんのこと?
蝶々夫人:死滅回遊魚のことよ。
マ:ひょえ〜〜〜。もしかして、死んだ魚が回遊してるってこと?? そんなオドロオドロシイものは見たくないわ。
ジ:マリンはまだまだ素人だなぁ。
蝶:海流に乗って、本来の生息地から流されて別の海域にやって来る魚たちのことよ。秋の伊豆なら、黒潮に乗って南から流れて来る、サンゴ礁の魚が見られるの。
ジ:伊豆や紀伊半島では、秋の水温は25度くらいまで上がるだろ。だから、南方からのお客さんたちも生きていられるんだけど、12月くらいに水温が下がると、寒さに耐えきれなくなって死んじゃうんだ。
マ:だから、「死滅」というわけね。
蝶:「死滅」という言葉のイメージがあまりよくないから「季節来遊魚」と呼ぶ人もいるけど、専門的には「無効分散」する魚のことなの。
マ:無効ってことは、有効じゃないんだ。
ジ:多くの生き物は海流に乗って分布域を広げる、つまり、分散するチャンスを狙っているんだ。でも、せっかく分布域を広げても、そこで子孫を繁栄させることができないから「無効」なんだな。
マ:伊豆辺りではどんな種類が見られるの?
蝶:そうねぇ、ムレハタタテダイやカミソリウオ、ミナミハコフグの幼魚、モンガラカワハギの幼魚……。死滅回遊魚がたくさん観察されている西伊豆の大瀬崎では、記録されている魚類600種のうちおよそ3分の1が死滅回遊魚と言われているわ。
マ:って、どんだけ〜!? あれ、でも幼魚も多いのね。
ジ:卵や孵化後まもない遊泳力の低い仔魚が流されてくるからな。それと、水温が低いからか、ちょっと体色が黒ずんでいる個体が多いのも特徴だぜ。
蝶:最近は温暖化の影響からか、越冬する個体の報告例も出てきたのよ。
マ:かわいい赤ちゃんが死滅せずに成長するのは喜ばしいけれど、死滅しないのにシメツっていうのもね・・・。
蝶:海の中から環境の変化にいち早く気づく。それは、ダイバーだからこそ知りうる、大事な視点ね。