コラムニスト:堀口和重
vol.2 来たっ!深海から訪問者、ユウレイイカ…の子供
ユウレイイカの仲間の幼生
さて、皆さんお待ちかねの(!)ライトトラップのお話第2回目がスタートです!
前回の「干されてないスルメイカ、本当の姿」では、外洋性のスルメイカのことについて熱く語りましたが、今回は深海性のイカのお話を、さらに熱く!語っていきたいと思います。
最近のブーム到来で一躍有名になった深海生物、ダンゴムシのようなグゾクムシや、人間なんてとてもちっぽけな存在だなぁと思ってしまう巨大なダイオウイカなど、深海は未知の生物であふれていますね。
そんな深海生物たちを自然の姿で見るには、潜水艦に乗らないと遭遇できないだろうなぁ~、と思ってしまう人がほとんどだと思います。
が、しかし!夜に光の力を借りて仕掛けるライトトラップを使えば、普段は深いところにいる深海性の生き物たちが見られる可能性もあるのです!
大瀬崎のある駿河湾は世界で一番深い湾内としても知られています。
その時の条件によっては、潮の流れが深海性の生き物たちを運んで来たり、深いところから浅いところにやって来て産卵する彼らに出会えるチャンスもあるのです。
産卵後、誕生した子供たちは浮遊時期を過ごし、水面を漂うように生活します。その中で光に寄ってくる生き物たちがいるのです。
そんな光に導かれ今回現れたのは、ものすごくめずらしい深海性のイカの幼生です。
その名も「ユウレイイカ」。まずは、以前出たことがある、これまた珍しいユウレイイカの成体の姿をお見せしたいと思います。
話は、2013年1月にさかのぼります。
他店さんの情報により弱ったユウレイイカが浅場に現れたという情報が。
ユウレイイカは深海100mから600mに住む、深海のイカ。
当時、イカにあまり興味がなかった僕でさえ、初めて見る深海からの訪問者の姿には興奮を隠しきれませんでした。
2013年1月に上がったユウレイイカ
詳しい生態自体もほとんどわかっていない、資料もほとんどない!このイカが浅場に上がった時は、地震などなにかの大きなことの前触れの可能性があると言い伝えがある、まさに伝説的な生物なのです。それが上がってきたという奇跡に、ただただ驚かされたのでした。
そして時は2015年に戻り、4月5日土曜日
その日はジンドウイカやホタルイカモドキ科の仲間などのイカ類がライトに寄り集まってくる、イカ尽くしのイカ祭りでした。上がってくると「本当に今日はイカだらけだったなぁ!!」と各サービスのライトトラップの熟練者の方々が大賑わいの夜でした。ただ、この時は誰も知らなかったのです。翌日にさらなる興奮の出会いが待っていることを…。
次の日4月6日日曜日
日曜日の夜になると土曜日 とは一転、浜にはほとんど人がいなくなります。当然、ナイトをすると自分のライトだけがポツンと置いてある感じで少し寂しい。。。
その日は雰囲気が昨日と変化していて、30分間、とにかく光にはなにも来ない…来ても小型のアミなどのみ…。
潮が変わってしまったのかなぁと思って、諦めかけたその時です。
そこにあの、イカがライトの前に舞い降りてきたのです。
ユウレイイカの仲間の幼生 6㎝前後
エンペラ(ひれ)をものすごい勢いで動かしながらゆっくりと降りてくる。細長い体、なにより体と同じぐらいの大きさの触手。まさか!まさか!!以前画像で似たようなイカの幼生を見たことがある。
もしやっ…!ユウレイイカの仲間では?
その考えが頭をよぎった瞬間から、目の前の珍しい生き物に大興奮!!
とにかく周りにこのイカの幼生を食べてしまう生き物はいないだろうかっ?と大きく首をふりながら辺りを確認。
「よし、何もいない!」
それが確認できると、シャッターを切る!ひたすら切る!
そんなカメラのストロボの光を浴びせられ、イカもこちらを警戒したのか、今度は上に舞い上がり姿が見えなくなってしまいました。時間はたった2~3分の出来事でした。
上がってすぐ連絡、イカ・タコと言ったらこの方、水中写真家の阿部秀樹氏に画像を見てもらいました。すると、やはりユウレイイカの可能性が一番高いのでは?という話に。
しかし、このステージの写真は未だに撮られておらず、学者さんも頭を抱えているようで、明確な答えを出すのはまだまだ時間がかかりそうとのことです。早く答えが来るとうれしいですね。
さて、いかがだったでしょうか深海イカのお話。これからライトトラップをする方がどんどん増え、あちこちで「ユウレイイカの幼生が見られたー!」っと言う声が聞こえてくるといいですね。ダイオウイカブームの後はユウレイイカブームがひそかに起きてくれたらなぁと、切に願う今日この頃…。
コラムニスト
堀口 和重(ほりぐち・かずしげ)さん
西伊豆大瀬崎の<大瀬館マリンサービス>でガイドとして勤務。好きな生物は、クラゲ類・幼生類・ホタルイカモドキの仲間などの浮遊系。水中写真家・阿部秀樹氏のライトトラップに影響を受け、3年前よりナイトダイビングが可能な日は撮影&ガイドを行っている。1986年生まれ。